今日の「レコード手帖。」は、ライター・麻生雅人さんが、ブラジル産のソウル・ミュージックをご紹介してくださる、その名も「ソウル・ブラジレイロ」の連載・第2回目。

ブラジルのポピュラー音楽、僕も大好きなのですが、不勉強にして、未だにまったく知らないレコードと作家、ばかりです。情報があまりにスムースに入手出来る今となっては軽視されがちですが、麻生さんをはじめとした、多くのライターさんのお陰で、僕たちは、過去の知られざる、或いは現在進行形のブラジル産音楽の魅力を、享受出来ているのですよね。こんな、しあわせ、ないのですよね。麻生さん、ご寄稿、ありがとうございます。僕はもう一度、第1回目分も合わせて、読み返すことにします。

さて。昨日の小西康陽さんによる「ハジレコ」のお話を、リレーしてみましょう。
「レコード手帖。」廣瀬大輔さんの昨日のコラムは、確かに「初めて買った/聴いたレコード」「今となっては買っていたこと/聴いていたことがなんだか恥ずかしい、<恥>なレコード」について、アレコレ思いを燻らしたくなるもの、でした。

僕が初めて聴いたレコードは、「山口さんちのツトム君」、ということになりそうです。NHKのテレヴィ/ラジオ番組『みんなのうた』から生まれた大ヒット曲、であるのは皆さん、ご存知ですよね。実際のフォーマットはレコード、ではなく、カセット・テープだったのですが、あれは確か3歳か4歳の頃。小児喘息持ちで自宅に籠もりがちな僕は祖母とふたりで、毎日のように聴いては歌い、を繰り返していた記憶があります。

乳白色のプラスティック製のボディに、橙色のラベルが貼られたカセット・テープ。僕自身が親にせがんで買ってもらった記憶はまったくない、というところで、おそらく両親、もしくは祖母が、対・僕用の子守アイテムとして、当時、スーパー・マーケットのレジ手前の一角によく設けられていた、廉価なミュージック・テープ売場で購入したものだったのだろう、と推測している次第です。

そんな推測はもとより、とにかく家にあった、その市販のカセット・テープには、尾藤イサオさんの歌う「赤鬼と青鬼のタンゴ」や、水森亜土さんの歌う「南の島のハメハメハ大王」も、共に収録されていました。当時はもちろん、それら強烈な声の主が誰なのか、という知識を持ち合わせているわけもなければ、ラベルやパッケージに記されたクレディットに目を凝らす、なんて行為に及んだわけでもないのですが、僕の耳の奥にあるレコーダーに刻まれている声を再生するにつけ、今となっては行方知れぬあのカセットのなかの声の主は、お二方に違いなったのだ、という確信が強まるばかり、です。

いっぽうで、そのカセットで「山口さんちのツトム君」を歌っていた人が誰だったのか、ということについての、現在の記憶と見解は、困ったことに、至極曖昧で。現在、僕は同曲が収録されている7インチのレコードを3種所有しています(人気曲ゆえ、複数のレコード会社から競ってレコード・リリースされていたようです)が、その内2種、ポリドール盤と日本コロムビア盤で歌っている同曲のオリジナル歌手、川橋啓史さん版を聴いても、残り1種、もっともポピュラーなフィリップス盤で歌っている斉藤こずえさん版を聴いても、まったく判然とするものがないのであります。

そこで、さらに推測しているのは、僕のなかにもっとも鮮烈に刻まれたのは「山口さんちのツトム君」という歌に限っていえば、声の性質、ではなく、みなみらんぼうさんの書いた歌詞とメロディのなかに、幼いながらも垣間見てしまった、一抹の寂しさ、つまり、歌心のほうなのかもしれない、ということです。ちなみに、それに次いで刻まれているのは、何度も押した「巻き戻し」ボタンの「ガチャッ」という乾いた音と、高速回転するテープが再生ヘッドに擦れて生じた「キュルキュル…」という音、だったりします。これが、自分でも妙に生々しく感じられるほどの音圧。

歌詞は、今でも、そらんじること、出来るのです。これは2コーラス目の後半部分。

 だいじにしていた さんりんしゃ
 おにわであめに ぬれていた
 けさはげんきになったかな 「おはよう」
 へんじがない

ガチャッ! キュルキュル…

実はいま、夏風邪をこじらせておりまして。久方ぶりに、喘息も併発してしまい、ちょっぴり、参っています。寝汗は「ちょっぴり すっぱいね」、です(カギ括弧内、同曲・最終コーラス、最終フレーズより)。

布団にもぐり、アタマのなかで、ガチャとキュルキュル、やっております。それこそ、ほんとうに、久方ぶりのこと。最近は、無音の、スキップ・ボタンばかりだった気がするなあ。というわけで? 本日も更新。

(前園直樹)