医師の過労防止「まず母親の安心を」(前編)―東京の医療を守る会
「お母さんたちに安心を与えることが、医師の過重労働を減らすことにつながる」―。小児医療についての知識や、適切な医療機関への掛かり方などの普及に取り組む「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会は7月6日、東京都杉並区内で、低年齢の子どもを持つ親を対象に、救急医療機関への掛かり方などについての勉強会を開いた。同会の阿真京子代表は、「1年前に会が発足した当時は、『医師の過労を減らしたい』と訴えていたが、なかなかお母さんたちに通じなかった。だが、こうした勉強会を通じてお母さんたちが安心し、納得することで、少しずつ適正な受診につながると思う」と話す。舛添要一厚生労働相が「安心と希望の医療確保ビジョン」で「医療者と患者の協同の推進」を柱の一つとして打ち出す中、東京ではどのような活動が進んでいるのだろうか。(熊田梨恵)
【関連記事】
子どもの医療相談会開催―「知ろう!小児医療 守ろう!子ども達」の会
救急体制、「ハコ」より「ネットワーク」―舛添厚労相、現場を視察
「医療安全調」は政策決定の変革を象徴 同会は、現在2児の母親である阿真さんが、生後9か月の長男がけいれん重積を起こして、夜間に小児救急外来を受診した経験をきっかけに発足した。処置の間中鳴り続ける電話や、軽症患者で溢れる救急外来などを見た阿真さんが、その様子を友人の小児科医に訴えると「徹夜明けのパイロットの操縦する飛行機に乗りたいか? 医療現場ではそれが当たり前」との返事があった。小児医療の現状にショックを受けた阿真さんは「母親の不安をなくすことで医師の負担を減らしたい」と考え、2007年4月に会を立ち上げた。趣旨に賛同する小児科医などの協力を得ながら、子どもを持つ親を対象に勉強会などを開き、どのような場合に救急外来を受診すべきかなど、適切な医療機関への掛かり方などの普及に取り組んできた。
会員は子どもを持つ母親など現在約40人で、協力している医師は約10人。インターネットを通して活動が広がり、東京や茨城、埼玉など関東近郊のほか、山口や福島、新潟にも会員がいる。
同会が発足して2年目を迎えた今回の講座では、済生会栗橋病院副院長の白髪宏司医師がワクチンについて、山王病院小児科副部長の小林真澄医師がけいれんの対処法について、まつしま病院の佐山圭子医師が小児疾患に多い症状などについてそれぞれ講義(講義の詳細は後編)。それぞれの講義中、どのような場合に救急医療機関にかかる必要があり、その際は救急車がよいか、自家用車・タクシーでよいかなどを解説した。母親からは「こんなことを聞くのも恥ずかしいが」としながら、多くの質問が活発に出た。
参加は夫婦連れなど50人を超し、多くの子どもの声で会場がにぎわった。
■「小児救急大変」だけでは解決しない
今回講師として初めて参加した小林さんは、「普段からこうした知識を患者に伝える場が必要」として、週に2回埼玉県で子どもの親を対象に、ボランティアで講義をしている。「患者に知識があれば来なくてもいい救急外来が半数。医療側も『小児救急が大変』といろいろと言っているが、それだけでは問題は解決しないので、こういう場が大事だと思う。この活動はお母さんたちが声を上げていることに意味があるし、医療者から言うよりも理解を得られやすいのでは。こうした活動が広がることが大事」と話した。 白髪さんが講師を務めるのは今回で2回目だ。「この場に来るのは意識が高い人たち。土日も働いていたりする忙しい人たちにどうやってメッセージを伝えるかが課題。今回も『恥ずかしいと思うが』と言いながら、いろいろな質問がお母さんたちから出てきたことがよかった。医師が十分いて医療機関が回っている状況ならよいが、トリアージができておらず、三次救急に軽症患者が来て、医師が疲弊して現場から去っている現状がある。今の日本にはこういう場も必要では」と話し、今後も会の活動に協力していきたいと述べた。
■「頭の中整理できよかった」
勉強会に夫婦で参加した武蔵野市の35歳の女性は、「1歳2か月になる子どもがいるが、むやみに救急外来を受診しようとは思わないけど、見極めることが大事だと思った。泣いているにしてもどういう時に緊急性があるのか、頭の中の整理ができてよかった」と話した。37歳の夫は、「実際に自分の子どもが病気になったらおろおろすると思うので、知っていると知らないのとでは大違いだと思う。こうした活動があるとは知らなかったが、患者に啓発していくことは素晴らしいと思う」と述べている。
■まずは「お母さんの安心」から
阿真さんは発足当初を振り返り、こう話す。
「会の発足当初は『医師の過労を防ごう』と訴えていたが、それだけではなかなか伝わらなかった。だが、お母さんたちがまず納得して安心することで、賛同が得られて活動につながっている。こうした勉強会を1−2回聞いただけで、すぐに救急外来を受診する回数が減るとは思わない。だけど、知識が広がっていくことが大事だと思う。最近のマスコミ報道などでほとんどのお母さんが『医療崩壊』について知っていて、どうしたらいいか考えている。そのお母さんたちに子どもの病気について知ってもらい、安心してもらうことで、活動につながると思う」
阿真さんは今後、杉並区で9月から隔月で子どもの病気や育児の相談会を開き、自治体に対しても母親学級や、3−4か月検診などを利用した講座の開催などを呼びかけていく予定だ。
厚労相が6月18日にまとめた「安心と希望の医療確保ビジョン」では、3本柱の1つに「医療者と患者・家族の協同の推進」を掲げ、医療者と患者の相互理解や、医療の公共性に関する認識、患者や家族の医療に関する理解の支援などを重要課題として提示している。いわゆる「コンビニ」受診の抑制や、「医療の不確実性」、有限である医療資源についての理解を進めることなどを示している。 厚労相は、都内の救急体制の状況を視察し、二次救急の疲弊を聞いた6月24日、「医療確保ビジョン」について触れ、「今後、国民に対してもコンビニ受診をしないように訴えていきたいと考えている」と医師らに話しており、7月3日には、兵庫県丹波市で、子どもを持つ母親たちが崩壊の危機にひんしていた小児科と産科を守るため、07年4月に立ち上がった「県立柏原病院の小児科を守る会」を視察している。
同会は、「まずはお母さんが安心することで、医師の過労を防ぐことにつながる」としており、「コンビニ受診を控えよう」など、医師の負担軽減を活動のメーンに据える「柏原病院の小児科を守る会」とは、趣を異にしている。
阿真さんは勉強会終了後、「自分が聞きたい内容をテーマにしているし、先生方の話を聞いて『熱だけなら安心していい』など、自分の中での判断材料もできてよかった」と述べ、会の盛況ぶりに笑顔を見せた。
患者らが「安心して医療を受けたい」として、医療者と支え合おうとする活動が、それぞれの地域で独自性を持ち、始まりつつある。
更新:2008/07/07 12:00 キャリアブレイン
新着記事
医師の過労防止「まず母親の安心を」(前編)―東京の医療を守る ...(2008/07/07 12:00)
診療科、「男性泌尿器科」などOKに(2008/07/04 14:02)
革新的な新薬を創造−「ラクオリア創薬」が事業開始(2008/07/03 20:40)
過去の記事を検索
キャリアブレイン会員になると?
専任コンサルタントが転職活動を徹底サポート
医療機関からスカウトされる匿名メッセージ機能
独自記者の最新の医療ニュースが手に入る!
第18回 医療の良心を守る市民の会代表・永井裕之さん 「遺族の思いは、何が起こったか真相を明らかにしてほしい、同じ思いを他の人がしないよう、再発防止を徹底してほしいということ。本当に納得すれば、決して訴えることなどはあり得ない」―。1999年に東京都立広尾病院で起こった点滴への誤薬注入による医療過誤 ...
患者に寄り添う看護に重点医療法人社団昌栄会「相武台病院」(神奈川県座間市)24時間保育でママさん支援 厳しい労働実態から離職率が12.3%に達するなど、看護師の確保・定着が看護現場の重要な課題になっている。こうした中、神奈川県座間市の医療法人社団昌栄会相武台病院では、組織を挙げて働きやすい職場づくり ...
Weekly アクセスランキング
※集計:7/1〜7/6
埼玉県戸田市の戸田中央総合病院には、今年もたくさんの新人ナースが仲間入りしました。人に寄り添う日々の業務は、緊張の連続でもあります。新人ナースの一日に密着しました。
医療セミナー情報