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救急搬送の調整役医師配置事業、都道府県の実績ゼロ

2008年7月7日

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グラフ    ※写真をクリックすると拡大します 図    ※写真をクリックすると拡大します

 救急患者の搬送先が見つからない問題を解決する当面の「切り札」として、厚生労働省が4月から始めた「救急患者受け入れコーディネーター事業」が暗礁に乗り上げている。受け入れ病院を探す調整役の医師を配置する仕組みだが、導入した都道府県はいまだゼロ。大半は医師不足などを理由に見送る方針で、制度の実効性を疑問視する声も多い。

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 コーディネーターは患者の病院搬送が困難な場合、救急隊からの連絡を受けて症状を迅速に判断し、適切な病院に受け入れを依頼する。人件費は国と都道府県が折半して負担。厚労省は今年度、7億円の予算を確保した。

 朝日新聞が47都道府県の担当者に検討状況を尋ねたところ、導入する方針を決めたのは、搬送先が見つからずに救急患者が死亡した例が昨年末以降、相次いで表面化した大阪府のみ。ほかに千葉県と京都府が導入を模索する意向を示したが、残りは「検討中だが難しい」「検討すらしていない」「見送った」など、消極的な回答だった。

 医師不足を補う施策のはずが、人員確保が最大の障害になっている。「医師が足りず、夜間の当番体制さえ組めない地域もある。医師には少しでも診療してほしい」(青森)、「医師確保が優先で現場も消極的」(滋賀)といった声も目立つ。東京都は、救急救命士に医療行為を助言する「指導医」が東京消防庁に常駐しており、「もう一人コーディネーターを置く余裕があるかどうか」と懐疑的だ。

 「そんなことより、軽症患者が押しかける『コンビニ受診』を減らす努力を、というのが現場の声」(鳥取)、「時間外の当番病院を探し、連携を工夫する方が先決ではないか」(愛媛)など、ほかの対策に比べて優先順位が低い、との意見も多かった。

 制度自体への疑問も少なくない。「病院探しは医師より救急隊の方が得意」(宮崎)、「地域ごとに消防機関が分かれ、情報の集約化が難しい」(静岡)といった意見のほか、広島県の担当者は「病院が搬送を断るのは満床や処置中などそれなりの理由がある。だれが頼んでも無理なものは無理では」と明かした。

 厚労省は5月、コーディネーター役の医師確保が難しい場合は看護師ら職員でも認めると条件を緩和した。ただ、適任者がいないなど、導入の後押しになっていないのが実情だ。同省指導課の担当者は「難しいかもしれないが、何とか導入してもらえるよう弾力的に運用したい」と話す。

    ◇

 かつては「救急先進地」と言われた大阪府。だが、急患の増加と医師不足で救急病院の疲弊が進み、総務省消防庁の調査でも、搬送要請を10回以上断られた例は全国で3番目に多い71件にのぼった。

 対策として、府は救急病院の当番制を導入するなど医療体制を改革する一方、今年度予算案に、受け入れ先を探す「救急医療情報システム」を一新する事業を盛り込んだ。

 新システムでは、救急隊が搬送要請を繰り返しても受け入れ先が決まらない場合、各病院に一斉に搬送要請を送信。病院に置かれた端末のアラームが鳴り続ける。止めると救急隊員の要請が端末で自動再生され、受け入れ可能な病院が手を挙げる仕組みだ。

 コーディネーター役の医師は、端末で搬送困難なケースを監視。一斉連絡でも搬送できない重症患者は府内13カ所の救命救急センターの中で受け入れを決める。厚労省の事業は一般の救急病院も含めて探す想定だが、コーディネーターが全病院を把握するのは難しいとして、府は調整の対象を救命センターに絞った。

 府医療対策課は「大きな効果が期待でき、態勢が整い次第、運用したい」。ただ、救命センターの責任者が集まった5月の会議では「コーディネーターの詰め所を作ると、それだけ救急医全体の勤務負担が増す」「救急医が足りない」と不安の声が上がった。コーディネーター役をだれが担い、どこに配置するかなどは、まだ決まっていない。

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