耕作放棄地を再び農地に戻そうと農林水産省が検討を始めた。コメ減反のあおりで休耕田も増えている。食料自給率を回復させるには、放棄地だけにとどめず、総合的な農地政策を打ち出すべきだ。
政府は福田康夫首相を長とする食料・農業・農村政策推進本部で「21世紀新農政2008」を決定し、二〇一一年を目標に放棄地の解消を掲げた。農水省はこれを受けて専門家による「耕作放棄地対策研究会」を発足、今秋に具体策をまとめる予定だ。
過去一年間栽培せず、今後の数年間も作付予定がない農地。それが耕作放棄地だ。一九八五年に十三万ヘクタールだった放棄地は三十八万ヘクタールに増えた。その拡大に歯止めをかける。研究会のテーマである。
福田首相は六月、食料価格の急騰を受け、急きょローマで開かれた食料サミットで「各国は自らの潜在資源を活用することが重要だ」と訴えた。農地を蘇(よみがえ)らせるというのなら、減反政策によって増える一方にある休耕田の活用も併せて検討すべきではないか。
減反は水田の四割に当たる百十万ヘクタール。麦などへの転作実績は四十万ヘクタールにすぎない。残りは休眠状態にあり、放棄地と合わせると東京都の実に五倍近い面積になる。
戦後、日本農業は耕作者が農地を所有する自作農方式が長く続いてきた。しかし工業化など経済の構造変化に労働力を奪われ、加えて高齢化が農家の減少に拍車をかけた。政府は二〇〇〇年代に入って農地法を改正し、株式会社にも農業参入の道を開いている。
農地所有者が放棄地や休耕地を安心して貸し借りできる制度づくりは不可欠だ。農業の在り方や方向性をめぐっては多様な主張があるが、食料政策は国民生活に直結する重要課題だ。農地の回復の必要性は誰もが認めている。
日本が全量を自給している作物は主食用のコメのみで、小麦は九割、飼料は八割が輸入頼みだ。ところが農業輸出国の間では、自国の食料逼迫(ひっぱく)を理由に輸出を抑えるケースが相次いでいる。「日本は輸入しすぎだ」との批判すら飛び出し、食料の外国頼みに危うさが増している。
農水省は首相の指示で現在39%の自給率を50%に引き上げるため工程表を策定するという。ただ、英国は40%台から70%に回復させるまで二十年を要した。安易な輸入頼みに陥らず持てる資源を着実に活用する。それなくしては先進国中最低の自給率を反転させることなど絵に描いたモチになる。
この記事を印刷する