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【主張】タクシー再規制 業界体質の改善が先決だ
全国で料金値上げが相次いだばかりのタクシー業界で、今度は新規参入や増車を制限する規制が復活しそうな気配だ。
利用者利便の向上を目指すせっかくの自由化に逆行する動きであり、慎重な検討が必要だ。安易な再規制は、業界の正常化をさらに遅らせかねない。
国土交通省は再規制をこう主張する。規制緩和でタクシー台数は増加傾向にあり、地域によっては行き過ぎた運賃競争を招いている。それがまた、乗務員の労働条件を極度に悪化させる原因にもなっており、緊急対応はぜひとも必要だというのである。
規制復活の方向は、すでに交通政策審議会の作業部会に示され、実施は既定方針として進み始めている。国交省は、来年の通常国会には道路運送法改正案を提出する段取りという。
タクシー事業は、平成14年の規制緩和で新規参入や既存業者の増車が大幅に自由化された。東京地区を例にとっても、緩和前に比べると車両数は約1割増の6万台近くに達している。
その分、利用者はタクシーが拾いやすくなり、明らかにサービスは向上したと受け止めている。だがその一方、乗務員の待遇は悪化しているのも事実だ。
タクシー乗務員の平均年齢は50代前半で、全産業平均より10歳以上高い。労働時間も長い。半面、平均年収は350万円程度にとどまり、全産業平均とは200万円以上の格差がある。この10年では100万円前後下落した。
国交省は昨年、東京を含む全国の半分以上の地域で相次ぎ値上げを認めたが、その最大の理由も乗務員の待遇改善だとされた。
ところが結果はどうだったか。値上げを上回る客足の落ち込みにより、乗務員の収入はむしろダウンしている。それでも台数が減らないのは、歩合制が主流のいびつな給与体系と、人件費が総費用の7割を占めるというタクシー事業の特殊事情があるためだ。
車両の調達・管理コストの比率が低い分、事業者は売り上げ減には増車で対抗しようとする。結果的に乗務員の待遇はますますしわ寄せを受ける構図である。
本来、規制緩和とあわせて行政が真っ先に取り組むべきは、こうした業界体質の抜本改善だった。そこが手つかずのままでは、値上げも再規制も、結局は弥縫(びほう)策の繰り返しにすぎない。