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NIKKEI NET

社説1 洞爺湖会談は日米関係を癒やしたが…(7/7)

 米政府が北朝鮮のテロ支援国家の指定解除を議会に通告した後の日米関係は、季節に例えれば何だろう。うららかな春ではないから、洞爺湖会談で日米首脳は春を演出した。

 両首脳は会談後、初めて共同記者会見し、北朝鮮の核、拉致問題、世界経済、地球温暖化防止、アフリカ支援などで連携を強調した。福田康夫首相は「北朝鮮の完全核放棄に向け検証が重要だ」と述べ、ブッシュ大統領も同意し「(拉致問題で)日本を見捨てはしない」と語った。

 日米結束の演出は、双方の戦略的判断の結果だろう。気まずい日米関係が首脳間にまで及べば、喜ぶのは北朝鮮だからだ。両首脳はそれを避けた。が、対北融和で歩調を合わせれば、日米離間以上に北朝鮮を喜ばせる。両首脳はそれも避けた。

 テロ支援国家指定の解除通告は、福田政権にどう影響したか。福田首相がそれを容認したとし、厳しい評価を示した世論調査もある。内閣支持率は底を打ったかに見えるが、相変わらず低迷している。

 自民党を支える保守層には、テロ支援国家指定の解除に対する不満がある。それが間接的にせよ、福田政権の基盤を弱めるとすれば、ブッシュ政権の決定は、政権基盤の弱い同盟国首脳に政治的犠牲を強いる結果になる。

 指定が解除される8月11日までに、北朝鮮が核申告をめぐる検証措置、日本人拉致問題で誠意ある対応を示せば、解除の成果となる。日本国内での空気も変わり、日米は結束を取り戻す。

 一方、北朝鮮が日米結束を避けたいと考れば、思わせぶりに構えてみせ、投球せずに時間を稼ぐか、クセ球を投げる。日米は判断に迷うが、期限は来る。米側は解除手続きを終える。日米関係の梅雨空は続く。

 北朝鮮は独裁国家ゆえ、日米両国をもてあそべる。国内で人気がなく政権基盤が弱い民主主義国の指導者を相手にすれば、少なくとも短期的には独裁国家側が交渉では有利な立場になれる。

 福田首相にとっては、任期を終える大統領の耳に痛い言葉を投げても意味はない。日米首脳が連携を確認したのは当然である。外交的にも賢明だったが、言葉による癒やし合いが目の前にある問題の解決に直ちにはつながるわけではない。

 日米首脳会談は日米関係の気まずさを幾分かは減らしたが、北朝鮮に核、拉致問題などで誠意ある対応を迫る強い発信になったかどうか。北朝鮮は日米両国、それに実は中国をも、もてあそび続けるのだろう。

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