世界最大級の電気街・アキバ(東京・秋葉原)で起こった無差別殺傷事件から、はや一カ月が過ぎようとしている。
本紙「くらし面」では、ネットや若者支援に精通した有識者の寄稿などから、容疑者を孤独に追いやった背景を分析してみた。
容疑者は犯行直前まで携帯サイトに投稿した。ネットコミュニケーションに詳しいフリーライターの渋井哲也さんは六月二十三日付紙面で「恋人がいない劣等感、『良い子』を強いた親への恨み。書き込んだのは、若者が抱える『生きづらさ』そのもの」と表現した。さらに不特定多数の目に触れる公開掲示板への投稿は「分かってほしい。誰かとつながりたい。そんな願いが込められているのでは」と記した。
ニートらの再出発を支援する特定非営利活動法人・ニュースタート事務局の二神能基代表は同三十日付紙面で、「正社員は長時間労働に疲れ、フリーターはワーキングプアの道を横ばいするばかり。容疑者はそんな若者の一人で、特別な存在ではない」。負け組を自認する価値観に「刷り込まれた勝ち組教育から抜け出せなかったことが、事件につながった」とも。
働き方の問題を取り上げる意見もある。本日の紙面は派遣社員の不安定な雇用をまとめた通信社の記事を掲載した。「殺人は到底理解できないが、将来に不安を感じている」の声が目を引く。
希望を持てる社会には何が必要なのか。雇用構造の見直しか、それとも“勝ち負け”に振り回されない人間関係か。被害者、遺族の無念さを心に刻み、紙面づくりの教訓としたい。
(文化家庭部・赤井康浩)