警察が捜査に乗りだした中国産ウナギの産地偽装事件は、巧妙な取引の隠ぺい工作や不審な金のやりとりなど理解できないことでいっぱいだ。
分からぬといえば、ウナギも謎に包まれた魚である。外洋で生まれ、黒潮に乗って日本に戻り、川や湖に生息し、再び海に戻って一生を終える。その生態には未知の部分がたくさんある。
しかし最近出版された「ウナギ」(井田徹治著、岩波新書)を読むと、ウナギの謎が日本の研究により次々に解明されたことが分かる。困難だった人工養殖に実験室段階で成功していることなどに注目したい。
日本人の研究の最大の功績は、玉野市出身で東京大学海洋研究所教授の塚本勝巳さんが取り組んだニホンウナギの産卵場の発見だ。二〇〇五年六月、北太平洋・マリアナ諸島西の海底にそびえるスルガ海山と突き止めたのだ。
南の海で生まれた幼生は、黒潮に乗り約二千キロを北上し日本沿岸で小さなシラスウナギに姿を変える。しかし養殖の稚魚として乱獲され、卵を産んでくれるニホンウナギは減少の一途だ。海から淡水へ体を順応させる干潟の喪失や水質の悪化が拍車を掛ける。
このままではニホンウナギはいずれ絶滅危惧(きぐ)種の仲間入りをすると警鐘を鳴らす。国産ウナギが食べたくても食べられなくなるのでは寂しい。