金融庁が、保険金や給付金の不払い問題で生命保険会社計十社と、元中国人社員らによるインサイダー取引事件を起こした野村証券に対し、再発防止の徹底などを求める業務改善命令を出した。契約者や投資家の保護を重視した行政処分は当然といえよう。
生保の不払い問題は、二〇〇五年に発覚した。金融庁の命令で生保各社が調査したところ、契約者が支払いを請求していない特約が大量に放置されている例などが見つかった。各社は独自に改善に取り組む努力を続け、事務処理ミスをなくして不払いを防ぐシステム投資を実施した生保もある。
それでも、金融庁が業務改善命令を出したのは、十社の不払いが二〇〇五年度までの五年間で九十九万三千三百七十五件、七百九十一億四千二百万円と多額のうえ、不払いを防ぐ内部管理態勢が不十分と厳しく判断したからだ。金融庁は、生保の経営陣が不払い防止の重要性を認識せず、システムや社内研修の仕組みづくりを怠っていたのが原因と指摘している。
十社は、八月一日までに業務改善計画を提出し、経営トップの自主的な報酬カットなど経営責任の明確化も検討する方針だ。生保の不払い問題は、今回の行政処分で一区切りを迎えた形だが、各社は契約者の立場での分かりやすい商品の開発などに取り組む必要があろう。
野村証券に金融庁が業務改善命令を出したのも、内部管理態勢に不備があったとしたからだ。企業の合併・買収(M&A)の仲介など金融業務の多様化や、国際化の進展で外国人社員の増加に対応した法令順守態勢の整備が重要なのに、社員研修制度や人事制度が整っていなかったとする。野村証券自体に法令違反はなかったが、証券市場の信頼を揺るがせた責任は重いとして行政処分に踏み切った。
処分を受けた野村証券は、提出を求められていた業務改善報告書を命令翌日に提出し、金融庁は受理した。報告書では、職業倫理教育を最重要項目に位置付けている。改善策の実効性が問われる。
損害保険各社も、火災保険などの保険料取りすぎ問題で調査結果を発表し、二十六社で計約百五十三万件、総額三百七十一億円の取りすぎがあったとした。損保各社は取りすぎた保険料を契約者に返還する作業を進めているが、保険不信が高まりかねない。
時代は、消費者重視の流れが加速している。保険や証券各社の意識転換が重要だ。
行き詰まり状態にある北方領土問題の新たな展開となるのだろうか。ロシアのメドベージェフ大統領が、プーチン前大統領が無視してきた北方四島の帰属問題を解決して平和条約を締結するとした一九九三年の「東京宣言」を領土交渉の基礎の一つとする認識を示した。
主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)への出席を前にクレムリンで共同通信などと会見した際の発言である。東京宣言、さらには平和条約締結後の歯舞、色丹の二島引き渡しを定めた五六年の「日ソ共同宣言」など両国の合意に関する質問に「あなたが言及した複数の有名な宣言を基礎に前進するため肯定的な弾みを与え、落ち着いた調子で問題を検討しなければならない」と答えた。
北方領土問題について、プーチン氏は四島支配を「第二次大戦の結果」と正当化し、二島返還で幕引きする考えを表明してきた。四島返還を目指す日本がよりどころとする東京宣言など論外というわけだ。今回の大統領発言は対日外交での軟化の可能性を示唆したといえよう。
だが、プーチン氏の影響力が強い中で大きな方針転換や早期の進展を望みにくい状況にもある。資源大国として経済発展し存在感を高めたこともロシアを強気にしている。大統領も「過度に状況を緊張させず、肯定的な雰囲気をつくり出すことが大切だ」とくぎを刺した。
北方領土をめぐる両国の協議は、明るい兆しが見えたかと思うと強い反対の動きに阻まれてきた。今度こそ解決への糸口にしたい。まずは領土問題を前向きに進める環境整備が必要だ。八日には日ロ首脳会談が予定されている。福田康夫首相とメドベージェフ大統領は、忌憚(きたん)なく意見を交わし協議の質を高める出発点にするよう求めたい。
(2008年7月6日掲載)