|
(4)青森も残業200時間青森に行ってみたい、と思ったのは昨秋のことだった。 ネット検索で「医療崩壊」をたどって行くと青森県の新聞、東奥日報の連載を見つけた。青森は日本有数の医師不足県。同紙の脳卒中特集の中に、青森県立中央病院脳神経外科の医師たちが、高知医療センター同様、残業二百時間であることが出ていた。 高知医療センター脳外科の溝渕雅之医師(48)に記事を見せると彼は言った。 「青森の西嶌(にしじま)先生といったら、かなり有名ですよ」 脳外科の年間手術数は医師六人で六百件余り。一日で血管奇形、脳動脈瘤(りゅう)、脳腫瘍(しゅよう)と三つの大手術をこなすこともある。腕を磨くため鶏肉で血管吻合(ふんごう)の練習もしている―そんな内容だった。 溝渕医師は解説を続けた。「ものすごく勉強して、ものすごくやる所らしいですね。血管奇形が二時間か。速いなあ…」とつぶやきながら、こう言った。「うちと決定的な違いが一つある。分かりますか?」 ―さあ…。 「ものすごく手術に特化しているはず。うちみたいに脳外科医が当直で救急車のベル(直通電話)持ちをやらされたりはしてないと思う。だから、鶏肉で練習する時間もある。きっと神経内科も心療内科も、専門の科が診てくれてるんですよ。うちは神経内科がないから、けいれんや髄膜炎も診るし、意識障害、糖尿病昏睡(こんすい)、リストカット、自殺企図まで脳外科が出るんだから」 そしてこう続けた。 「青森の先生の残業二百時間は脳外科の仕事のためだけ。それなら不満はないですよ。自分が好きで選んだ仕事をやるのは、医師は苦にはならないから」 ちなみに、高知医療センター脳外科の昨年の手術数は三百余り(うち血管内手術約百)。医師数は今春まで六人だった。既に書いてきた通り、不眠不休に近い状態で働いても青森県立中央病院の半分である。果たして、溝渕医師の予想は当たっているのか…。 図星だった。親分肌の百戦錬磨、西嶌美知春・副院長兼脳神経センター長(59)はこう言った。 「あなたの記事読んで涙がこぼれたよ。おれんとこのシステムがどんなに恵まれているのか良く分かった。違い過ぎるよ」 最大の違いは、神経内科が五人もいることだ。 「基本的に脳梗塞(こうそく)の急性期患者は全部、神経内科が診てくれるんだ」 脳卒中の六割は血管の詰まった脳梗塞。その患者を他科が診てくれたら、負担軽減はものすごい。同席した西村真実脳外科部長(45)も言った。 「神経内科がいなかったら僕らは倒れます。それと、うちは一次救急を脳外科が診なくていい。それもかなり助かるんです」 さらにもう一つ大きな違いがあった。それは血管内手術(昨年は百四十五例)を神経放射線科の医師主体で行っていたことだ。 「ここがまた、すごいところなんだな」と西嶌センター長。 「西村先生も血管内の専門医だけど、最近は大きな開頭手術が多いからね。血管内もやると体が持たないんだよ」 血管内手術は脳外科医も助手として入るし、主治医も脳外科が引き受けるが、CTやMRIの検査、読影はすべて神経放射線科医に任せているそうだ。 溝渕医師の予測通り、脳外科は特化していた。その結果、脳外科の入院患者は、四分の三を手術患者が占めていた。 西村部長の以前の勤務先の脳外科は三割だったそうだ。 「手術をしない脳梗塞の患者さんの入院が多くて、転退院の手配ばかり。七、八割は脳外科の仕事じゃなかったですからね。たぶん、どこの病院でも同じような状況。そういう中で皆、症例を集める努力をしてると思うんです」 【写真】青森県立中央病院・脳外科の親分、西嶌副院長(青森市東造道) (2008年06月26日付・夕刊)
|
サイトマップ|プライバシーポリシー|ネット上の著作権|新聞購読|お問い合わせ |
Copyright © 2006 The Kochi Shimbun. All Rights Reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。 すべての著作権は高知新聞社に帰属します。 |