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(3)現場救済策 次々ハイリスクで仕事のきつい診療科と、そうでない科では報酬格差を付けるべきだ―という話はあちこちで聞いた。公立病院勤務医の気持ちも長続きしないし、医師の卵も敬遠する。だが、実行するとなると、かなり難しいとも聞いていた。 「うちはもうやってますよ」。山形大医学部長の嘉山孝正・脳外科教授(58)はさらりと言った。 「医療危険手当ね。脳外科だけじゃなくて、リスクの高い診療行為を行った場合には手当を出しているんです。二年前の七月から、全国に先駆けてね」 高額の技術料が伴う手術には、技術料の一割を手術に立ち会った医師の数で分けているそうだ。麻酔科医も自分たちの技術料を分ける。夜中の緊急手術だけではない。昼間の予定手術もだ。 「何にでもというわけじゃないですよ。命にかかわる手術。特に血が出るものですね」 対象は脳外科、心臓外科、循環器内科、内視鏡手術の消化器内科など。 それだけではない。待機当番医が救急外来に呼ばれたら、一回の診療従事について五千円の手当を、すべての医師に出す。待機手当の日当六千円とは別枠だ。これは現場の気持ちを救ったという。 専門科の呼び出しとは別に、救急部にも重症患者への対応には手当を出す。原資は病院の黒字分からだ。 「本当は、医者は金額の大小じゃないんです。でもね、上が自分たちの大変さを認めてくれたことが現場はうれしいんです。だから、一番きつい心臓外科もうちは毎年、入局者がいるんですよ」 一つ間違うと反発も招きそうだが、はっきりした考えと素早い実行力は気持ちがいい。 「だからね、高知医療センターも三次救急に特化することですよね。だって、人材は限られてるんだから疲弊しちゃいますよ、これ以上やったら。患者さんには申し訳ないけど敷居を高くしないと」 山形大付属病院はこの六月から夜間・休日の急患診療について、緊急性がなかった場合、一律八千四百円の時間外特別料金の徴収を始めた。徳島赤十字病院が四月から三千百五十円を取り始めたのと同じ発想だ。 また、産科医支援として「分娩(ぶんべん)リスク手当」も新設。一出産につき二万円の支給も始めた。改革は加速している。 「大学とか基幹病院は難しいことをやるべきなんです。易しいことは開業医の先生方にお願いする。機能を分化させないと。もう、コンビニ受診はやめです。うちは脳外科と、あと五つぐらいの科は紹介状がないと診ないことにしてるんです」 極めて合理的かつ先進的だ。そこで私は、以前から抱いていた疑問を聞いてみたくなった。 高知医療センターロビーにある「宝箱」という病院利用者からの意見コーナー。ここに多くの苦情と回答が張り出してある。読んでみると質の低いものが多く、回答を書くための労力を、病院本来の業務に回してほしい気がするほどだ。教授はどう考えるのか。 「僕も要らないと思いますね。なぜか。医療はサービス業っていうけど、それは労働対価があってこそでしょ。この国の医療には対価がないんだもの。それはサービスではありません」 患者のプライバシーを守るということで、医師が耳元まで行って名前を呼ぶことに対しても、「うちはやってません。患者さまはお客さまですなんて言いだしたころから、医療はおかしくなったんです」と明快だった。 教授は多忙で一時間ほどしか話を聞けなかったが、中身は濃かった。そして私は青森へ足を延ばした。 【写真】先手、先手の山形大医学部。教授回診で学生を鍛える嘉山医学部長(脳外科病棟) (2008年06月25日付・夕刊)
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