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(2)報酬の差別化図れ
「このまま租税、社会保障負担が増大すれば、日本社会の活力が失われる。近い将来、医師過剰時代がやってくる」という内容。この問題提起を境に医療費抑制と、国立大の医学生の定員削減が始まったという。 「とんでもないインチキだったんです。二十年以上たって分かったんだけど」 教授は資料を次々とめくった。まずは世界各国のGDP(国内総生産)に占める医療費の割合(平成十六年統計)。 「医療崩壊しているイギリスに抜かれて二十一位なんですよ。じゃあ、なぜ日本の医療費は高いと国民が感じるかっていうと、患者さんが病院の窓口で払うお金が高いから。でも、国全体での医療費はこんなに低いわけね。つまり、政府が税金を投入してないんです。だから、自治体病院の七割が赤字なのは当たり前なんですよ」 続いてWHO(世界保健機関)のヘルスリポート(十二年)。「医療のレベルは日本が世界で一位なんです。アメリカは二十四位ね」 次は医師数。OECD(経済協力開発機構)加盟三十カ国の平均(十七年)が、人口十万人当たりで医師三百人。それに対して日本は二百人。下から四番目だ〈表参照〉。 「医師を地方から吸い取った東京でも二百七十人。OECD平均より低いんです。つまり、日本の医師は絶対的に足りなかったわけ。都市部に偏在しているという理屈は成り立たない。厚労省の失政です。十年ぐらい前から、何だか忙しくておかしいぞと思って調べたらこんな数字が出てきたんです」 要するに、日本は世界一手間の掛かる医療をやっているのに医師も医療費も少ない。医師の疲弊は当然の結果だという。 十六年度から始まった新臨床研修制度が何年かたって落ち着けば、都会であふれた医師が地方へ逆流するという話もあったが、「とんでもない。地方の医師不足は続きますよ。一人前になるには十年かかるんだから」。 そして話は脳外科の後継者不足に移った。国内の八十大学で昨年度、入局者数ゼロだった脳外科が二十三もあるのだ。 「日本の医療はハイリスク・ローリターン。同じ収入だったら、若い人は楽でリスクがない診療科を選びますよ。病院の給料だって民間→公的→自治体→国となるほど下がるんだから」 三年前、全国医学部長会議で講演するための資料を探した時、衝撃を受けたという。山形大医学部教授(五十代半ば)の給与が、時給換算でわずか一千七百円弱。他の職業に比べてはるかに低かったのだ。 「給料は安い、仕事は忙しい、訴えられる。だから公立病院に医師が集まらなくなるんです。プライドだけで仕事してるようなものだもの」 「本来はね、そういう施策を日本医師会や厚労省の医政局がやるべきだったのに、一切やってこなかった。忙しくても忙しくなくても、給料が一緒じゃ人は集まらない。インセンティブ(動機付け)がいるんです」 例えば高知医療センターの脳外科も二倍、三倍の報酬を出せば、二次医療を担っている医師が集まってくるはずと言う。 「アメリカのハーバード大は三百人卒業して、二百人が脳外科志望なんですよ。専門医資格を取ると、一億円クラスの報酬が待ってるから。でも、競争もすごいんだよね。専門医になれるのはたった二人なんだから」 (2008年06月24日付・夕刊)
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