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2008年04月19日付・夕刊
(8)“骨太”の若手内科医
「救急病院」の近森病院。だが、夜間の救急外来に救急医はいない。どんな体制で対応しているのか。 当直は外科、内科の医師が一人ずつ。さらに遅番で、内科の上級医師が一人、午後十一時まで残る。急患の七割は内科系疾患で、大半は午後十一時までだからだ。これに研修医が加わる。そして、重症患者が来た場合は、各専門科の待機当番医を呼び出す体制だ。 救急外来密着三日目の午前零時すぎ、高知医療センターで見てきた常識を覆す場面がやってきた。 夜間で五台目の救急車。七十歳代。転んで、嘔吐(おうと)し、片まひがあった。近所のかかりつけ医に連絡したが断られたという。過去に軽いくも膜下出血の既往歴がある。 「微妙ですねえ。頭の中を見てからですね」 内科当直の三木俊史医師(27)はCTを撮ったが脳出血は認められなかった。脳梗塞(こうそく)も疑ってMRIも撮影。頸(けい)動脈が少し狭くなっていたため経過観察することにした。驚いたのはそこからだ。 彼は頭の中の血管の図を描き、家族に説明を始めたのだ。 「ここの血管が消えてます。以前からのものだと思われます。血液検査では糖尿がある。白血球も高い。感染を起こしているかも。急変の恐れもあるので、今日は入院して、朝、専門科の先生に診てもらいましょう」 何と、脳外科医に頼らず全部自分でやり切ったのだ。医療センターでは有り得ない話だった。三木医師は卒後三年目。専修医として消化器内科の専門医取得を目指している。 翌日、その驚きを脳外科の高橋潔部長(51)に伝えると彼は言った。 「要するに、新臨床研修制度がいい方向に働いているわけですよ。各科を回って、いろいろ教えられて力を付ける。当直でも、自分が診断できないと思ったら専門科の待機当番を呼べばいいわけですから」 それはまさに今、求められている総合医の姿だろう。訴訟を恐れて自分の専門分野以外は最初から診ない医師が増えている中、近森は骨太の医師を育成しているようにも見えた。 ◇ ◇疲れても専門科が“全力投球”する医療センター。それに対して“全員野球”で診る近森の救急外来。そして、救急医が二十四時間、救急車の初期対応をする高知赤十字病院。同じ救急の大きな病院でも中身は三者三様だった。 日赤、近森の取材を終えた昨年暮れ、久々に医療センターに顔を出し溝渕雅之医師(48)に感想を話すと彼は言った。 「近森のように専門外の科の先生が頑張って診て、指示も全部出してくれたら、そりゃあ皆、助かりますよ。でも、うちは全部の科が三次救急(重篤患者)を前提とした医師の配置なんです。そこへ軽症の患者さんも来るから余計に人手が取られ、さらに負担が増してしまうんです」 将棋に例えると、歩や香車を打てば事足りる場面でも常に金、銀以上で応戦しているのが医療センター。駒が無限にあればそれも可能だが、全国的な医師不足では補充もできない。限られた数の医師が、自分の命を削って患者の命を守るような状況を、いつまで続けられるのか。 そんな疑問を溝渕医師に投げ掛けたが、予想外の返事が待っていた。二十年三月いっぱいで、彼は岡山に帰ることが決まったのだ。代わりの医師は来ないという。激務の脳外科から貴重な戦力が消える。どうなるのか。 【写真】救急搬送の連続で患者が救急外来からあふれ、隣の処置室もごった返す近森病院(高知市大川筋1丁目) |
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