＜無罪判決＞強殺被告に神戸地裁　「合理的な疑い残る」

　神戸市中央区の質店で０５年１０月、経営者の中島実さん（当時６６歳）を殺害して現金を奪ったとして強盗殺人罪に問われた同市灘区篠原本町、電気工、緒方秀彦被告（４９）の判決が３０日、神戸地裁であった。岡田信裁判長は「犯人とみるには合理的な疑いが残る」として無罪（求刑・無期懲役）を言い渡した。

　緒方被告は０５年１０月１８日午後６時〜８時半ごろ、店内で中島さんの頭を鈍器で殴って殺害し、現金約１万円を奪ったとして０７年９月に逮捕、起訴された。

　現場には緒方被告の指紋と足跡が残っていたが、緒方被告は捜査段階から一貫して容疑を否認。質店から立ち去る被告の姿を見たとする目撃の信用性や、指紋と足跡が付いた理由が焦点になった。

　目撃証人は事件の１年１０カ月後、県警が見せた２０人分の写真の中から被告を特定した。この点について判決は「被告の写真は他の写真と比べて識別しやすい状態だった上、１年１０カ月も経過し、印象に基づく主観的判断の側面が強い」と指摘。指紋と足跡については「当日昼ごろ、防犯カメラ設置の相談のため店内に入ったが、犯行時間の数時間前に店を出た」とする被告の弁解を「合理的」とした。

　緒方被告は、被告人席で何度も大きくうなずきながら判決理由を聞いた。戸谷嘉秀主任弁護人は「適切に証拠を評価してもらった」と話した。

　神戸地検の山根英嗣次席検事は「意外な判決だ。判決内容を検討し、上級庁と協議する」とのコメントを出した。【山田泰蔵】