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【社説】

週のはじめに考える 目標を掲げて、前へ

2008年7月6日

 日本がG8のサミットを仕切るのは、これが最後になるかもしれません。先進国だけでは担いきれない課題を抱えた、洞爺湖サミットの開幕です。

 世界的なヒットになったドキュメンタリー映画「アース(地球)」には、アフリカゾウの大群が水場を求めて乾期の砂漠を大移動する場面がありました。

 太陽が砂漠を焦がし、砂嵐が視界を遮ります。方向を誤れば、渇きと飢えで群れ全体が朽ち果てるしかありません。

 集団の長い旅には、ゴールへの明確な道筋と、率いる指導者のリーダーシップが欠かせません。

百年に一度の転換期

 「世界は百年に一度の転換期にある」と言われています。

 地球温暖化は、言うまでもなく危機的な状況です。原油の高騰はとどまるところを知らず、食料危機は先進国にも襲いかかろうとしています。洞爺湖にかかる霧のような視界不良の真っただ中、重い課題を背負ったサミットです。

 脱温暖化についてサミットはここ数年、重要な役割を果たしてきたといえるでしょう。

 昨年の独ハイリゲンダム・サミットでは、メルケル首相が米国との妥協を重ねながらも土俵際で持ちこたえ、温室効果ガスの排出を「二〇五〇年までに、地球規模で少なくとも半減するよう真剣に検討する」ことで合意しました。

 洞爺湖では最低限、この先へ進まなくてはなりません。

 世界は今、二〇二〇年までにどれだけ削減するかを決める「中期目標」の設定を求めています。

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今後二、三十年の努力と投資が、温暖化による破滅的な危機回避への分かれ目になると訴え、ただちに行動を起こすよう政治家に呼びかけました。政治家はそれぞれの国民に、行動を促さなければなりません。そのための目安になるのが中長期の目標です。

脱温暖化は脱石油

 脱温暖化以外にも、食料危機と原油の高騰が、主要議題になっています。これらは相互に絡み合いながら、人々の危険と不安を増大させています。

 気候変動の要因は、化石燃料への過度な依存と、その野放図な消費です。気候変動がもたらす異常気象が穀物の生育を妨げ、農地や漁場を荒らします。

 脱温暖化を名目に、中東への石油依存を減らそうともくろむ米国の政策が、穀物などから油を搾るバイオエタノールのブームを呼び、食卓と製油所が作物の争奪戦を始めています。

 温暖化対策は、石油依存からの脱却を意味しています。食料の増産や、原油価格の沈静化にもつながります。

 穀物市場や石油市場へ流れ込む巨額の投機マネーには、中長期と言わず速やかに、歯止めをかけねばなりません。

 アフリカを中心に世界中で十億人が、一日一ドル以下で暮らしています。一握りの投資家にはただのマネーゲームでも、膨大な貧困層には命にかかわる問題です。

 食料、石油、水のような生命の生存基盤は人類共有の財産です。

 米英を説得し、投機マネーの規制にも道筋を付けなければなりません。

 「地球市民」の幸せに結び付かないグローバリズムの台頭や、それぞれの国が自国の論理に引きこもる「中世回帰」の進行は、食い止めなければなりません。

 サミットは一九七五年、第一次石油ショック後の不況対策を話し合うため、パリ郊外のランブイエ城で始まりました。六カ国でのスタートでした。

 東西冷戦の終結など、国際情勢の変化に合わせてすそ野を広げてきましたが、「第三次石油ショック」とも呼ばれる状況下、サミットも潮目を迎えています。

 山積する地球規模の難題にG8だけでは対応できず、洞爺湖拡大会合の参加国は、史上最多の二十二カ国を数えます。

 中印やブラジルなどを正式メンバーに迎え入れ、G13への拡大構想も浮かんでいます。

 食料、資源の消費大国であるインドや中国も、これからは「大国」としての責任を果たしていかねばなりません。

アジアで唯一に固執せず

 日本は「唯一のアジア代表」の地位に固執せず、サミットの新たな枠組みについても、柔軟に検討を始めなければなりません。

 「無事これ成功」と評されたこれまでとはひと味違う、転換点のサミットです。

 石油資本と投機マネーを背景にした米国覇権主義への追随は、時代遅れになっています。

 欧州と米国、先進国と途上国、調整を託された議長国日本の責任は重大です。

 

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