北海道洞爺湖サミット(主要国首脳会議)の舞台となるリゾートホテルはかつて、メーンバンクの北海道拓殖銀行の経営破綻(はたん)のあおりで閉鎖され、「バブルの廃虚」呼ばわりされた。しかし、営業再開後は高級志向が奏功し、華麗な再生を遂げた。
対照的に、北海道経済は長い冬から抜け出せずにいる。97年の拓銀破綻以来の低迷が続き、1人あたりの年間所得は全国平均より30万円低く、総生産も20兆円台を割った。自治体破綻の象徴と化した夕張市に限らず、十指にあまる市町が破綻の予備軍と目されている。
私自身北海道の出身だけに、残念な現状だ。さまざま要因はあろうが、国と公共事業に依存しがちな産業構造の影響は否定できまい。国は98~07年度の計画で総額9・4兆円の公共事業を北海道に投入した。だが、事業は途中で圧縮され地元経済は冷え込み、景気対策に付き合った自治体に借金の山が残った。国頼みが傷口を広げたのだ。
その北海道に新たな波が押し寄せている。相次ぐ官製談合事件を受け、政府は国土交通省の出先である北海道開発局の廃止と、道庁との統合の検討に着手した。「局」といっても08年度の事業費6100億円、職員約5600人を擁する「官庁」だ。道路、河川など道に重点配分される国の事業を仕切り、01年の旧北海道開発庁からの移管後もにらみをきかせてきた。
かねて道庁と「二重行政」との批判もある中での廃止論だ。だが、事業費、人減らしの観点のみで論じるべきではあるまい。仮に道庁が開発局と統合すれば地方と国の権限を併せ持つ強力な自治体に変容する可能性を秘める。
都道府県を再編し国から権限を移す道州制構想のモデルとして、政府は北海道に「道州制特区」制度を導入した。中央官庁の抵抗で現状は大胆な分権から遠い。しかし「新道庁」に国の権限も移譲すれば、自らの必要に応じた整備や、地方議会や住民による監視が可能となる。分権の受け皿としての能力を高めたうえで他省の権限移譲も進めれば国にお伺いを立てずに観光、農業の戦略も立てられる。地域主権の「道州」の姿に近づくのではないか。
むろん、国が押し付ける筋合いの議論ではない。道庁では財源不安などから統合に慎重論が強いという。ならば権限・財源移譲を条件に統合プランを示し政府と渡り合ってはどうか。
開発局廃止論は決してピンチではない。むしろ、北海道を起点に日本の自治の仕組みを変える好機として生かしてほしい。
毎日新聞 2008年7月6日 東京朝刊