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社説

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官製談合―賠償の請求で終止符を

 役所が天下り先を確保するため、公共事業をどの業者に落札させるかを決めたうえで高値で発注する。こうした官製談合がまた断罪された。

 旧日本道路公団発注の橋工事をめぐる談合事件で、旧公団副総裁だった内田道雄被告が懲役2年6カ月執行猶予4年の判決を受けた。

 言い渡した東京高裁は、官製談合が旧公団の「違法な慣行」だったと指摘した。旧公団OBが橋メーカー業界に天下りして受注業者を割り付け、それに旧公団がお墨付きを与えていた。執行猶予にしたのは「被告は前任者からその役目を引き継いだのであって、被告のみを責めることはできない」との理由からだ。

 旧公団の組織的な犯罪だったことが明確になったのだ。旧公団はすでに分割民営化されているが、官製談合は官の世界に広く深く根を張っている。根絶するために追及の手を緩めてはならない。

 その武器の一つが、5年前につくられた官製談合防止法だ。公正取引委員会から再発防止を求められた役所や公的団体は、かかわった職員に対し、談合によって被った損害分を返すよう速やかに請求しなければならないという規定がある。経済的にも責任を厳しく問うことで官製談合をなくそうというのが狙いだ。

 ところが、北海道岩見沢市、新潟市、旧道路公団、国土交通省は、公取委から官製談合防止を求められたのに賠償を請求した事例は1件もない。

 岩見沢市は「損害がなかった」との結論だったが、残りは調査中という。

 旧道路公団を引き継いだ東日本高速道路は、元副総裁の有罪が確定するのを待って調査の結論を出す方針だという。元副総裁側は上告したが、高裁がここまで明確に断罪したのだから、請求の根拠としては十分だろう。

 官製談合によって公務員や職員、業者にかすめ取られたのは税金や公金だということを忘れないでほしい。その回復を納税者らに代わって担うのだから、速やかに請求すべきだ。

 今回の判決によると、談合があった工事の落札率は、なかった工事よりも10%余り高かった。判決が「談合が旧公団や社会に与えた損害は甚大」と批判したのもうなずける。これではドライバーが払った通行料などは、職員の退職後の天下りのために流用されていたというしかない。

 国交省では水門工事談合での賠償請求の結論が出ないうちに、北海道開発局をめぐる別の談合が摘発された。もたついていると、身内をかばっていると思われても仕方があるまい。

 問題を起こした役所や公的団体が賠償請求を先延ばしにするようなら、請求を別の機関に担わせるように法律を変えた方がいい。

300日の壁―子どもの幸せを第一に

 兵庫県に住むA子さんは、戸籍を持てずに27歳まで生きてきた。その苦痛や不安はどれほどだったろうか。

 愛する人とも法律上の結婚がかなわないまま、5月末に男の子を産んだ。戸籍がなければ出生届は受理されない。親子2代で無戸籍になる。

 事情を知った法務省が、A子さんと夫の婚姻を仮に認め、出生届が受理された。子どもは長男として父親の戸籍に入ることができた。子どもに不利益が及ばなかったことを若い夫婦とともに喜びたい。しかし、A子さんは依然、無戸籍のままだ。

 なぜ、こんな事態になったのか。27年前に、A子さんの母親の前に立ちはだかった300日の壁のせいだ。

 離婚後300日以内に生まれた子どもは前の夫の子と推定する。民法772条には、こう定められている。

 A子さんの母親は夫の暴力が原因で家を出た。夫の協力が得られなかったために離婚の届け出が遅れ、現在の夫との間にA子さんが誕生したのは法律上の離婚から73日後だった。

 こういう場合、出生届は前の夫の子どもとして出すしかない。A子さんをいったん前夫の戸籍に入れ、前夫に頼んで改めて調停か裁判で親子関係を否定してもらわなければならない。

 前夫の暴力におびえていたA子さんの母親は、前夫にそれを頼むことができなかった。結局、出生届は出せず、A子さんは無戸籍になった。

 A子さんだけではない。法務省の調べでは、毎年約3千人が離婚後300日以内に生まれている。去年6月時点で無戸籍になっている子どもは、わかっているだけで227人にのぼる。

 法務省の通達で300日規定の運用が見直されたのは去年5月のことだ。医師の証明書で離婚後の妊娠であることがはっきりすれば、実の父親の子どもとして出生届を出せるようになった。この1年で470人あまりの子どもが救われたのは一定の前進だ。

 だが、対象が離婚後の妊娠に限られたため、多数の親子が取り残された。

 いま、戸籍のない子どもたちが戸籍を得るため実の父親との親子関係の確認を求める調停を各地の家庭裁判所にいっせいに申し立てている。

 やはり今の通達では不十分だ。もともと当事者らの切実な願いに応えて与党のプロジェクトチームが特例新法を作る準備を進めていた。DNA鑑定などを条件に、実際の父親の子どもとして届け出ができるようにする案だ。ところが、自民党の一部の保守派議員らが「不倫を助長する」と反対したため、実現しなかった。

 もう一度与党で特例法案の内容を詰め、法制化を急いでもらいたい。

 民法の規定が設けられた明治から家族のあり方は大きく変わった。今を生きる子どもと家族の幸せが最優先だ。

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