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受注892機を抱えたボーイング787の重い決断

[2008年06月号]

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延期に次ぐ延期—B787型機が飛び立つのはいつか?

 「初飛行は2008年第4四半期になり、顧客への第1号機の出荷開始は09年9月までずれ込む見込みだ」—米Boeing社(ボーイング)が08年4月9日、次世代旅客機ボーイング787 ドリームライナー(B787型機)の初飛行の3度目の延期を発表すると、同機の世界初就航を計画している全日空(ANA)は直ちに「我々は極めて遺憾に思う。これは第1号機の出荷に関する3度目の遅延であり、われわれには完全な出荷スケジュールの詳細説明もない。ボーイングには即急に120%確実なスケジュールを提示願いたい」と懸念を表明した。

 当初の計画通りに製造が進んでいれば、ANAのロゴを染めた最新鋭ドリームライナー第1号機が08年5月にも日本の空を飛んでいたはずだった。ANAをはじめB787型機の就航を計画に組み込んでいた世界の航空会社にとって、運行計画の大幅な修正は免れない。

 ボーイングのプログラムマネジャー、Pat Shanahan氏は業界アナリストと記者向けに行なわれた4月の説明会で、このたびの6カ月の再々延期をもたらした最大の原因、とともに進行がさらに遅れるリスクは「主要な構成部品を生産するパートナー次第」と語った。

 「どこに(遅延の)リスクがあるか、と問われれば、サプライチェーンの能力にある。それこそが、この生産モデルの中でまだ試験されていない部分だからだ」Shanahan氏は、供給される構成部品の試験で問題が出なければ、ほかに大きな技術的な課題は残っていない、と付け加えた。「あとは粛々と作業を進めるだけだ」


計画の慎重な洗い直し
 Shanahan氏が言う 「これまでより慎重な」最新のスケジュールは、08年1月に公約した既存の生産計画に対する徹底的な洗い直しから出てきたものである。ボーイングによると、09年のB787型機の納入計画は、当初予定していた109機から「25機程度」にスローダウンし、月間10機を生産するフル生産体制の確立は2012年まで達成できない見通しだ。一方、Boeing Commercial Airplanes社CEOのScott Carson氏によれば、B787型機の受注は、61〜62社の顧客から892機に達している。

 Shanahan氏はこの新スケジュールを固めた経緯を次のように説明している。「主翼ボックス内の補強スパーに追加のブラケットと“簡単な部品”が必要になったことが当初のスケジュールから2カ月の遅れを引き起こした。この“やり直し”によって、計画の重要な節目としていた電源投入を4月から6月に延期することになった。しかしこの遅れが、配線とシステム設置のための重要な工程のタイミングを外すことにつながり、さらに1カ月の遅れが発生した」

 同氏はまた、同社が試験期間を2カ月間延長するとした。試験で明らかになるかもしれない不測の問題に対処するための時間に、余裕を持たせたかったからだ。「試験結果に問題がなければ、この期間を短縮することが可能だ」と同氏は語る。当初の計画ではこの余裕を考慮しておらず、ボーイングは痛い目にあった。新計画はこの経験から学んだようだ。

進む負荷試験
 同氏は、当初から目指していた“効率的な製造プロジェクトの遂行(operational efficiencies)”についてはこれまでにかなりの進展があり、計画から隔たりのないものになっている、という。大型の構成部品については、両翼と胴体がほぼ完成している。

 「我々は翼を破壊限界まで試験する。すでにスタビライザと胴体は最大負荷をかけて試験している」と同氏は語る。「複合材試験バレルを、バレルが破壊する前に試験装置が壊れてしまうぐらいまで試験し、“いくつかの小さな問題”をあぶり出した」

 ボーイングでは、残り15%の構成部品の試験を終えていない。残る試験は第2四半期までに終了し、その後数カ月で実物大の機体で静止試験と疲労試験を完了する予定だ。完全な飛行機で破壊試験をするかどうかはまだ決定していないという。同氏はまた、3、4機目は6月30日までに最終組立段階に入ることを明らかにした。

 機械装置と電子機器類に関しては、ブレーキ制御、機内のエンターテインメント機器、電力システム、飛行制御のメンテナンス性能についての試験がまだ残っている。B787型機は、2,700のシステム要素と900個の構成部品から成る。Shanahan氏によると、07年秋の納期遅延の原因とされていた締結部品の供給不足とソフトウエアの問題はかなり解消したという。

 「B777型機は、初飛行の5カ月後に就航可能な体制になった。大方のB787型機は就航の4カ月前には出荷準備が整うだろう」と同氏は語る。型式証明のための飛行試験までには、未解決の課題はそれほど残っていない。この飛行試験は6機の試験機を使い09年の第1四半期に始まる。787型機の米General Electric社(GE)製エンジンは、3月31日に認証を得ており、試験飛行のチーフパイロットは、GEと英Rolls-Royce社(ロールスロイス)の両社製エンジンによる試験飛行の認証を取得済みである。Shanahan氏によると、ボーイングと連邦航空局(FAA)は、避雷に関する問題を解決する方法を見出したという。

 Shanahan氏は、主翼ボックスの補強スパーの問題をどのように見つけたのかを説明した。「有限要素解析(FEA)に誤りがあった。主翼ボックスは、釘を使って家を建てるようなものだが、飛行機ではその釘まですべて解析しなくてはならない」と同氏は語り、主翼ボックスに使う締結部品について言及した。

 B787型機の納期延長が、892件の受注や、顧客に支払う違約金や、B787型機の主要部品サプライヤが被る財務上の問題にどれだけ影響を与えるのかについて、Carson氏とShanahan氏は、詳しい回答を避けた。



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