GREAT ROCK VOCALIST KOSHI INABA,



■ 恵比寿からひと駅のアノ辺 ■
by きむりえ さん (April 2000)



 2000年4月、私は就職したての会社からいきなり大阪勤務の辞令を受けた。
関東から1歩もでたことのない私が、ひとりで大阪……
大阪に旅立つその日、私は自分にエールを送るために、とってもナイスなことを思いついた。
『そうだ!B'zの稲葉さんの豪邸を見に行ってみよう。』
恵比寿駅から1駅電車に乗った。
アノ辺に住んでいるらしい、その程度しか知らない。でも、私は元来、楽観的な人間で、"人生どうにかなる"をモットーに生きている、そういう人種だった。
駅周辺のギャルッ子たちをかき分けて突き進むこと15分、突如、雰囲気が変わる。
静かな湖畔の森の陰から、もう起きてはいかがとカッコウが鳴く…

あとはがむしゃらに進むだけ。どう歩いたか正直覚えていない。道を聞きたくても、人なんて歩いてないし、整然とした住宅街は一見モノにとってはただの迷路だし。
さまよってさまよって、結局のところ豪邸を見つけることは出来なかった。
(もう戻らないとなぁ)
ひょっこり現れた登り坂を前にそんなことを思った。
この坂を登ったらあきらめよう。
『あ、人が歩いてる。』
その時、坂道を大きな犬を連れて下ってくる小柄な人が見えた。
    ぬ、どっかで見たことのある犬だゾ…
    そう、雑誌とかで見たんだ。雑誌?週刊誌?ぬぅ。
    ぬぉ〜〜?!
    てことわ。探してた豪邸に住む人?
怖い、一生の夢だと思っていたことが今叶ってしまう。
自慢じゃないけど、昔、一緒にお風呂に入る夢を見たことだってある。
裸体をさらしてたのは私だけで、稲葉さんは服を着たままお風呂に入った。
そりゃ〜へんてこな夢だった。でも、そんなことは問題じゃない。今、
向こうから歩いてくるのは現実の稲葉さん。
勿論、今回も服をお召しだ。(そりゃ当たり前)

どうしよう…自分を見る。片手に旅行かばん、もう片手に紙袋、鼻の下に蒸気を感じる。そう、鼻の下に汗をかいている。汚い、醜い、みすぼらしい。
こんな女がはあはあ言いながら話しかけたら、稲葉さんは逃げるんじゃないだろうか?少なくとも私は逃げたい、でも近くで拝見したい。
そんな内面の葛藤とは無関係に距離は縮まった。
そして、ごく自然に私は声をかけてしまった。
稲葉さんですよね?という確認に相手もまた自然に「はい」と。
そして、立ち止まってくれた。
ナイロンジャケットにゆとりのあるジーンズ、キャップをかぶり、うすいブルーの眼鏡、という姿。
握手をしてもらった。
その握手で火がついてしまった。
大阪にひとりで行くさみしさを誰かにぶつけなくては!
例え、それが稲葉さんという天上人であっても!!
私は勝手にしゃべりだした。
    「今から仕事で大阪に行くんです。大阪でライブ待ってますから…」
稲葉さんは答えてくれた。
    「やりますよ、大阪。」
アノ声だ。TVでタモリと盛り下がった会話をするあの声…


そして、稲葉さんは犬をあやしながらまた坂を下り始めた。
ああ、行ってしまう。
私の一生の夢がこんなにもはやくあっさりと終わってしまう。
必死で夢の延長を考えた。
そして、坂を登る前にあった公園を思い出した。
私は必死に食らいついた。
    「あの、すいません…公園、公園どこですか?」
方向的に明らかに通りすぎてきたことはバレバレである。
でも、とっても親切に
    「この坂おりたとこにある公園のことかな?すぐそこにありますよ。」
と教えてくれた。
こうして、公然と稲葉さんと同じ方向に歩くことが許された。道をはさんで、気まずく歩いた。すぐに公園についてしまい、稲葉さんはそこで曲がるらしい。
その地点で稲葉さんは「公園はそこだよ」というジェスチャーをしてくれ、さらに、
    「そこの入り口からだと靴が汚れちゃうから、もう1つの方から入った方がいいですよ。」
とまで言ってくれた。
本当にファンの思い描く通りのやさしい人だった。

今思うと、どうしてサインをもらわなかったんだろう、とか写真とればよかった、とか思うが、人間には記憶する、というスバラシイ能力があって、いつでも感激を思い出すことができる。
    人間でよかった。(おおげさ)
そして、何より、プライベートな時間なのにもかかわらず、
変な女にちょっとの夢の時間を与えてくれた稲葉さんには本当に感謝しなくちゃいけない。ありがとうございました。


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