「アルファブロガー」は成立しているか

ブログでできることと、その現実

石川 達夫(2006-10-13 08:38)
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 少し前にITmediaの「プロブロガーは成立するか」という記事の中で、筆者の小寺信良氏はこう書いています。

 「パーソナルなジャーナリズムツールとしてブログが成立することは、すでに国内外で証明されていることである。だがそこになんらかの広告モデルを適用して収支が合うようになるには、単に取材して文章が書ける以外の才能が必要となる」

 「現在においては『プロブロガー』への道は、極めて険しいと言わざるを得ない。おそらく文章を書いて収益を得たいのならば、商業誌のライターになった方が早いし確実だ」

 物書きで生活できるようになるのは大変なこと、ましてブログで収益を上げられるのか、という趣旨は非常に明快で分かりやすい一方、「では、ブログの可能性や有用性とは一体何なのか?」について改めて疑問が生じます。

 その前に、「ブログというその“日記”はWeb上に“公開”された時点ですでに、本来の意味での日記ではあり得ないのかもしれない」という点に注目する必要があるのかもしれません。

 人通りの多い繁華街かどこかにわざわざ自分の日記の記されたプラカードを立てるような人はまずいないにもかかわらず、Web上で実際に生じているこの現象は、日記を書くという本来の自省的な行為を超え、単に自己実現とか人とのふれあいを求める気持ちをも超えているように思います。

 「そんな理由なき目立ちたがりや自己満足は恥や自滅を招きますよ」という含みを感じさせる先の小寺氏の記事に共感を覚える人も多いことでしょう。

 ではなぜ、それでも人はあえてブログを書いて更新し続けるのか?

 多くの人々にとってもしかしたらそれは、ストレス解消の一手段なのかもしれません。「J-CASTニュース」の最近の記事にもあるように、良し悪しは別にして「王様の耳はロバの耳!」とどうしても叫びたくなる時が人にはあるものです。まして、ストレス過搭載なのにいわば制限速度無視でひた走りせざるを得ないような多忙な現代人の多くにとって、日々の生活の中で声を大にして叫びたいことは山ほどある、ということなのでしょう。

 別の人々にとってのブログとは、趣味ないしは、ある種のライフワークなのではと思われます。最近流行の自分史等を書いて出版ならぬ公開をしたい人もいれば、それまで蓄積した情報や知識を手軽に公開し共有したいと思う人もいます。

 これとよく似たスタンスとして、仕事上必要な情報を集積したり、分類したり、公開したり、頒布したりするためにブログを活用している人もおり、そうした場合にブログは確かに大変利便性の高い手軽なツールとなり得ます。

 さらに別の人々にとってブログは明らかに、最終的には金銭を収集するための集客や宣伝を旨としているようです。オーマイニュースに掲載された記事で紹介した「アフィリエイト」に特化したブログがあります。

 そこまでいかなくとも、自分の書いた本を薦めたり、使っている便利ツールをアフィリエイトで紹介したりといったことはよくあることで、ある程度の収益も伴っていることでしょう。たとえばブログの女王とマスコミに讃えられた眞鍋かをりさんのブログを見ても、その始まりが売り込み目的だったかどうかはさておき、今ではしっかりと眞鍋さんのもとに人々を集め、金銭的な帳尻をも合わせているように見受けられます。

 ところが、こうしたスタンスとはまた異なる、読ませるための文章を公開するためにブログを活用している人々がいます。社会問題をニュースサイトばりに論じたり、特定の論題を専門家並みに分析したり、といったスタンスのブログです。それも1記事や2記事ではなく、しかも昔取った杵柄や素人の知ったかぶりとも思えない内容のそうした情報発信は、一体何を目的に、または動機としているのでしょうか?

 そのことを率直にお聞きするため、ブログの変遷また動向に通じている「ことのは編集室」の松永英明氏にインタビューしてみました。

×××××

松永氏がこれまでに書いたブログ系書籍・雑誌の山 (撮影者:松永英明)
石川(以下I):松永さんがブログを始めたきっかけはどのようなものでしたか?

松永さん(以下、敬称略):まず、ライターとして自分はこんなことを考えているとか、こういう話題は得意だというアピールができるサイトを作ろうと考えました。しかし、更新が面倒というのもあって、日記用スクリプトのようなものを探していました。テンプレートだけ最初に決めておけば、あとは内容だけを更新し続ければいいというツールを求めていたわけです。そこで、いくつかのツールを比較検討した結果、「Movable Type」が理想的な機能を備えていたので、採用しました。それがたまたまブログツールだったので、かなり早い時期からのブロガーということになってしまったという次第です。

I:ブログというツールよりもライターとしての必要が先行していたと。ところで松永さんがブログを書く目的や動機はどのようなものでしょうか?

松永:主な仕事はライターですが、ジャーナリストでもなければ芸術家でもありません。依頼された内容について、わかりやすく読みやすい文章を作る「職人」のようなものです。
 そうなると、本当に興味のあることや、売り物にならないマイナーな話題などについては書く場所がないわけですね。それでも、頭の中でいろいろまとまってしまった文章は、どこかで放出したい。それがそもそもの動機と言えると思います。
 もともと物事を突き詰めて調べるのが好きなので、カネにならないのがわかっていても、好奇心でいろいろ調べていきます。調べたデータをもとにして自分の考えを作っていくという作業を形として残す場所として、文章だけ書けばあとは更新するだけのブログは便利だと思っています。
 また、自分の考えがまとまっていない場合や、情報が足りないときには、「ここまでわかった」ということをブログで表明しておくと、足りない部分を教えたがりの人たちがいろいろ教えてくれます。「教えたがりの人たち」の活躍の場を生み出すのがWeb2.0的システムの特徴でしょうね。
 ブログは自分自身の備忘録でもあります。調べ物をしていて自分の記事にぶつかることも多いのですが、これは忘れっぽいだけかもしれません。

I:ライターとしての情報発信のもう1つの場、といういうことでしょうか。なるほどこれは盲点でした。物書きの人であれば、当然といえば当然の帰結ですね。でも「教えたがりの人たちの」の活躍の場を生み出すのがウェブ2.0的システムの特徴とは……言い得て妙というかなんというか。

×××××

 米国では、人気のあるブログの管理者のことを「アルファブロガー」と言うそうです。ここ日本におけるそうしたアルファブロガーの中には、「文章を書くなら、きちんと文章で勝負しないとね」というお叱りを受ける前に、「いえ、すでに物書き(ライター)で……」という方々が結構多いのかもしれません。

 つまりブログは、それら物書きまたライターである人々にもう1つの情報発信の機会をちょうどいい具合にもたらし、他の大勢の人々にもそれぞれに利便性や新たな機会をもたらし、ある人々にはストレス発散の場を、別の人々にはライターや物書きらしく振舞うことの喜びめいたものをもたらし、それは一部の人々の苦言や苦笑や揶揄をもたらしてもいる――これは確かに興味深い現象です。

 さて、「それでメシが食える」プロブロガーの成否はさらに将来の記事に譲るとして、すでに成立しているそれらアルファブロガーのブログを書く目的や動機も気になります。

 それで次回は、日本のアルファブロガーによる文章勝負のブログの成立と変遷について、松永氏へのインタビューを通してさらに解析してみます。



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