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社説1 韓国の混乱は信用力低下を招くだけだ(7/5)

 米国産牛肉の輸入再開問題に端を発した韓国の社会混乱が続いている。李明博政権の国政運営に与える影響は大きく、長期化する混迷に憂慮を禁じえない。

 5月初めから始まった米牛肉問題を巡る抗議行動は当初、学生や一般市民主体の平和的な集会だった。だが最近になって過激な活動家らによる暴力デモに先鋭化。警官隊との衝突で多数の負傷者が出た。現代自動車など一部の労働組合も混乱に乗じて「輸入反対」を名目にした時限ストライキを強行している。

 政権はこの間、米政府との再交渉で国民が不安視する品種の輸入制限措置を講じた。李大統領も政権の不手際を謝罪。青瓦台(大統領府)幹部の人事刷新にも踏み切った。初期対応に遅れた失態はあったが、政権の非だけを責める状況ではない。

 デモやストが先鋭化している背景には、10年ぶりに発足した保守政権に対する左派勢力の抵抗がある。5年前に盧武鉉政権を誕生させた母体で、かつて軍事独裁に反対した学生運動経験者が多い。反米・親北朝鮮の意識が強く、日米との連携を重視する李政権とは立場が異なる。

 盧前政権の失政で国民の左派離れは進んでおり、左派勢力は4月の総選挙でも敗北した。李政権への対抗手段が少ないなか、降ってわいた米牛肉問題を最大限に活用し、李政権に打撃を与えようとしている。

 2日にゼネストを呼びかけた中央組織の全国民主労働組合総連盟も左派系。暴力デモを陰で扇動しているのも左派勢力だとされる。国会でも統合民主党など左派系は米牛肉問題を理由に一切の審議を拒否、空転状態が1カ月も続いている。

 韓国が1987年に民主化してから20年あまり。対立する問題を議論で解決しようとせず、暴力や実力行使に訴えるのは、民主化が真に定着していない証しともいえる。

 大手紙・朝鮮日報の世論調査では牛肉反対集会を「中止すべきだ」との回答が57.2%で、「継続すべきだ」の37.9%を上回った。過激な暴力デモを嫌い、一般市民の参加者は極端に減っている。李政権は対抗勢力との対話を通じて、混乱の早期収拾を目指してほしい。

 韓国経済は原油高や物価高騰で厳しい局面を迎える。政府は6%としていた今年の成長率予測を4.7%に引き下げた。経常収支も今年はアジア通貨危機が起きた97年以来、11年ぶりに赤字に転落する見通しだ。国際信用力の低下が懸念されるなか、過激な暴力デモやストは海外の韓国不信を助長するだけである。

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