【第36回】 2008年07月04日
「ヤマダ電機」取引先従業員“タダ働き”で公取が指摘した問題点
―― 一流家電メーカーも逆らえない「圧倒的優位」の力関係
家電量販店最大手のヤマダ電機。自他共に認める驚異的な成長を遂げ、業界のガリバーとなった同社。しかしそのヤマダ電機に、これまでの輝かしい成長の歴史に水を差すような事態が起きている――。
先月30日、公正取引委員会は、「優越的地位の濫用」による独占禁止法違反の疑いで、ヤマダ電機に対し、排除措置命令を出した。その対象となったのは、家電メーカー等の取引先に対する従業員の派遣要請。新装・改装オープン時において、約250社の取引先から延べ約16万6000人もの従業員たちを、「ヘルパー」として派遣させていたというのだ。さらに、その派遣された従業員たちは、本来派遣の目的とされている自社製品以外の販売促進・商品説明だけではなく、時には商品の陳列から補充まで担当することもあったという。しかも、今年5月に公正取引委員会の立ち入り調査が入るまで、無報酬、つまり、「タダ働き」をさせていたのである。
(※公取の立ち入り調査後ヤマダ電機は、派遣従業員に対し、日当5000円を支払う形に変更)
今回の「優越的地位の濫用」という言葉が示す通り、「らんよう」の文字は、「乱用」ではなく「濫用」が正しい。「乱用」は「本来とは違う使い方」という意味があるのに対し、今回使われた「濫用」には、「行き過ぎた使い方」という意味がある。優越的地位を背景に取引先に対して、販売支援という名のもと、事実上は「労働力の提供」という“行き過ぎた”要請をしていたことになる。
昔から脈々と続く
取引先への優越的地位の濫用
「優越的地位の濫用」というのは、戦後まもなくは金融業界で多く見られた問題だった。例を挙げるとすればまず、昭和28年の『日本興業銀行事件』。これは、興銀が金属加工会社である日本冶金工業というステンレス製品の製造会社に対し、融資と引き換えに自分たちの推薦する役員の受け入れを強要したというもの。興銀は公正取引委員会より勧告審決を受けている。この事件は、当時の銀行の立場の強さを示す象徴的な事件であった。また、現在においてもそのような事例がある。それが平成17年の『三井住友銀行金利スワップ事件』である。これも取引先に対し、融資と引き換えに金利スワップというデリバティブ商品を押し付け販売したというもの。三井住友銀行は金融庁から一部業務停止命令を受けている。
その他にも、メーカーによる優越的地位の濫用とされる案件もあった。昭和52年の『雪印乳業事件』。これは、粉ミルクの販売において取引先に対し、正常な商習慣を超える不利益な条件で取引をしたというもの。結果的に雪印乳業も公取から独占禁止法違反として審決を受けている。この事件は、当時、メーカー支配力がいかに強かったかを象徴する事件である。
しかしその後、小売業の力が大きくなり始めたことにより、新たな事件が起こる。それが、昭和57年に起きた『三越事件』。納入業者に対し、協賛金など不当な取引条件を押し付けたというものである。三越も独占禁止法違反として公取から審決を受けた。
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永沢徹
(弁護士)
1959年栃木県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。卒業後の84年、弁護士登録。95年、永沢法律事務所(現永沢総合法律事務所)を設立。M&Aのエキスパートとして数多くの案件に関わる。著書は「大買収時代」(光文社)など多数。永沢総合法律事務所ホームページ
弁護士・永沢徹が、日々ニュースを賑わす企業買収・統合再編など、企業を取り巻く激動を、M&A専門家の立場からわかりやすく解説していく。