内閣府の「構造変化と日本経済」専門調査会が、十年後に目指すべき日本経済の構造を示した報告書をまとめた。中曽根政権当時の一九八六年、内需主導型経済への転換を訴えた「前川リポート」の二十一世紀版と位置づけたが、肝心の内需拡大に向けた取り組みは従来の構造改革路線の域を出ておらず、期待はずれと言わざるを得ない。
専門調査会は、経済財政諮問会議の提案を受けて今年二月に設置された。米国経済や原油高など外的要因に左右されやすい日本経済の弱さを克服し、自律型経済を目指すための経済戦略を主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)に向けて打ち出すことを狙いに議論を重ねた。
報告書の主題は「グローバル経済に生きる」で、副題に「日本経済の『若返り』を」とした。世界経済のグローバル化による好循環が、先進国と新興国全体の豊かさにつながっていると評価する半面、原油や穀物などの価格急騰に伴うインフレと貧困、地球温暖化の進行、先進国を中心とした賃金格差といった課題を指摘した。
そのうえで、日本経済は世界の構造変化への対応が遅れているとして、経済システムの「若返り」を提言した。求めるのは国境を超えて新たな発想や最新の技術、高度な人材が集まり、成長の源泉が生まれてくる場としての活動拠点づくりである。
報告書が強調する経済の構造転換は、これまで小泉政権以来の構造改革によって市場開放や規制緩和などが進められてきた。しかし、競争原理主義は日本経済全体の底上げを図るどころか、さまざまなひずみとなり、所得や雇用面の格差が深刻になった。働いても働いても豊かになれないワーキングプアと呼ばれる貧困層が増え、地方経済は停滞が著しい。若者は将来への希望が持てず、社会全体に閉塞(へいそく)感が漂っている。
ひずみを是正しないまま構造改革を続けるのは無理があり、国民生活を重視するという福田内閣の方針とも相いれない。報告書は、若者にしわ寄せしない社会保障制度の実現やセーフティーネット(安全網)の再構築をうたうが、具体的な政策提言は力不足だ。
報告書が唱える「外的なショックに強い経済構造の構築」にしても、それこそが、専門調査会の目的であった内需拡大であるはずなのに、どうしてもっと踏み込まないのか。市場原理に任せてきた弊害を是正し、政治の果たすべき役割の方向性を示してほしかった。これでは十年後を描く道筋はとても見えない。
公文書の管理体制について抜本的な強化策を話し合ってきた政府の「公文書の在り方に関する有識者会議」が中間報告をまとめ、上川陽子公文書管理担当相に提出した。
現状では国の公文書の扱いは実質的に各省庁任せ、担当者任せで、書式なども定まっていない。独立行政法人・国立公文書館で保存すべき重要な公文書にしても、各省庁が移管するかどうかを判断する仕組みのため貴重な公文書が廃棄されるケースが後を絶たない。
中間報告はこうした状況を踏まえ、総務省と内閣府の公文書関係の権限を一元化した新機関設置を提唱し、公文書の作成から保存、廃棄まで各省庁の統一ルール策定が必要とした。国立公文書館の位置付けを高めて職員数を数十人規模から数百人規模に拡充し、移管も公文書館側の判断でできるよう求めた。
最終報告は十月の予定で、政府はこれを受けて「公文書管理法案」を来年の通常国会に提出するとしている。
年金記録不備問題やC型肝炎発症者の資料を厚生労働省が放置していた問題では国民が直接的に不利益を被った。公文書作成や管理に関する法制度がやっと整うことは評価できる。
だが、公文書では作成や保存に加え、情報公開の問題を考えなければならない。この点で中間報告は物足りない。記述自体が少なく、例えば一定期間経過した後の機密文書などの公開についても「国際的動向等を踏まえ検討」とあるだけだ。
正確な情報に自由にアクセスし、判断できることが民主主義の根幹であり、中間報告にある通り公文書はこの根幹を支える基本的なインフラだ。公文書が適切に作成、管理され、かつ開示されるよう、制度を整える必要がある。
(2008年7月4日掲載)