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2008年7月5日

◎「歩きたばこ」禁止 金沢も条例化を検討しては

 小松―台北便の就航に続く東海北陸自動車道の全線開通で、遠来客の増加が期待される 金沢市にぜひ検討してもらいたいのは、「歩きたばこ」禁止条例の制定である。路上を歩きながらの喫煙は、たばこが嫌いな市民や遠来客に不快な思いをさせる恐れがあるばかりでなく、吸い殻のポイ捨てによって美観を損なうことにもつながりかねない。二〇一四年度の北陸新幹線開業も見据えて金沢のさらなるイメージ向上を図るためにも、歩きたばこ追放に前向きに取り組んでほしい。

 歩きたばこを禁止する動きは、二〇〇二年十月に東京都千代田区で初めての罰則付き条 例が施行されて以来、全国的な広がりを見せている。東京都内のほかの区や大阪市、名古屋市といった大都市はもとより、世界遺産がある京都市や栃木県日光市、あるいは江戸期の風情を残す岐阜県高山市といった観光都市でも、条例化しているところが目立つ。

 山出保市長は市議会三月定例会で、歩きたばこを禁止する条例の制定を求める質問に対 し、「条例で規制する問題ではない。市民の良心に訴える啓発活動を行う」と答弁している。確かに正論ではあるが、単なる啓発活動よりもさらに一歩踏み込んで、市の強い決意を示すことも必要ではないか。喫煙スペースを設けるなどして喫煙者にも配慮すれば、多くの市民や遠来客の理解が得られるだろう。

 罰則については、条例化している市区町村の中でも対応が分かれており、違反者に過料 を科す自治体もあれば、努力義務にとどめている例もある。禁止する範囲は、繁華街など指定した地域としているところが多いようだ。こうした点を市民ぐるみで議論することも、何よりの啓発活動になるはずである。

 高山などでは、貴重な文化財や街並みが火災に巻き込まれるのを防ぐことも条例の狙い の一つとしている。金沢にも長町の武家屋敷や重要伝統的建造物群保存地区に選定されているひがし茶屋街、主計町など守らなければならない財産がたくさんあり、地域指定を考える際には、そんな発想も参考にしたい。

◎北方領土交渉 三つの「宣言」基に糸口を

 ロシアのメドベージェフ大統領が、日ロ間の北方領土問題について、一九五六年の日ソ 共同宣言と九三年の東京宣言が交渉前進の基礎になるとの認識を示した。大統領のこの見解は、両宣言の有効性を認めて交渉を促進させるとした二〇〇一年のイルクーツク声明をも事実上、認めるものといえ、領土交渉でプーチン前大統領(首相)よりも柔軟な印象を与える。

 プーチン首相との「双頭体制」下で、若いメドベージェフ大統領が対日外交で独自の路 線を展開できるとは考えにくいが、東京宣言を無視する姿勢を強めていたプーチン前政権時代よりも、領土交渉の糸口をつかみやすくなったことは確かであろう。これまでの首脳会談などで積み重ねられてきた三つの文書の効力をてこに、領土交渉の歯車を回したい。

 日ソ共同宣言は、平和条約締結後に歯舞、色丹の二島引き渡しを定めており、東京宣言 は国後、択捉を加えた四島の帰属問題を解決して平和条約を締結すると明記している。両宣言に基づいて交渉の促進をうたったイルクーツク声明は、当時のプーチン大統領と森喜朗首相との間で合意された。

 外務省内では、イルクーツク声明に至った経緯を踏まえて「歯舞・色丹の返還条件」と 「国後・択捉の帰属問題」を並行して協議する方式が検討されているとされる。私たちも領土交渉を前進させる一つの方法と考える。メドベージェフ政権の発足を機に、並行協議方式の領土交渉に本気で取り組んでみてはどうか。

 並行協議方式はいわゆる二島先行返還論に通じ、結果的に二島返還で幕引きとなる恐れ があるとして反対論が根強い。しかし、領土の返還を段階的に実現させながら、平和条約締結というもう一つの重要な目的を達成する現実的な手法ということができる。

 主権国家として四島の引き渡しを求め、その実現を図るのは当然のことながら、一括返 還論に拘泥して、いつまでも平和条約を結べない不正常な関係が続くことによる国益上のマイナスの大きさも考える必要がある。


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