中国産ウナギの産地偽装は警察が一斉捜索に入り、事件に発展した。容疑は不正競争防止法違反(虚偽表示)だが、手口が悪質極まりなく、扱った量は多い。これは消費者を食い物にした詐欺だ。
ウナギ産地偽装
悪質極まりない詐欺だ
万葉歌人の大伴家持が「夏やせによしというものぞ鰻(うなぎ)とり食(め)せ」と詠んだように、夏ばて防止とくればウナギのかば焼きだ。しかし、その産地表示が信用できないとなれば、消費者は買い求める気になるだろうか。
土用の丑(うし)の日を前に購買意欲を失わせるような事件が起きた。徳島県が拠点の水産物輸出入販売会社「魚秀」(大阪市)とマルハニチロホールディングス子会社「神港魚類」(神戸市)が中国産ウナギを国産と偽装した疑いで兵庫、徳島両県警の捜索を受けた。
原産地は中国なのに「愛知県三河一色産」と偽り、製造者を「愛知県岡崎市一色町」が所在地の架空会社に仕立てていた。
ウナギの産地としては愛知県幡豆(はず)郡一色町が有名だ。卸売市場では国産は中国産の二−三倍の値で取引されるという。一色ブランドと混同させ、利益を得ようとした狙いがあったのではないか。
流通経路の設定も手が込んでいる。実際は二社間で取引したのに、東京の商社を介在させて代金を授受したようにみせていた。
魚秀から神港魚類に二百五十六トン(約二百五万匹)が販売されたという。取り扱った量は多く、どれほどの人が口にしたのか。
魚秀社長は「中国製ギョーザ事件で売り上げが不振となり、在庫をさばきたかった」と釈明したようだが、手口や量からは場当たり的な行為とはとても思えない。
農林水産省が調査に動いた直後、魚秀社長が神港魚類社員に現金一千万円を渡したという。「口止め料」という話もでている。計画的に偽装し、隠ぺい工作まで試みていたというしかない。
最大の被害者は消費者だ。食の安全からブランド品を求める心理につけこまれ、高い買い物をさせられた。使用禁止の抗菌剤まで検出されている。捜査当局は徹底解明してほしい。
ミートホープ、赤福餅(もち)、船場吉兆、飛騨牛と、食をめぐる不正は後を絶たない。多くは内部告発から発覚しており、隠し通せるものではないことを示している。
不正が露見すれば、営業自粛どころか、廃業に追い込まれることさえある。業者は食品表示を軽くみてはならない。偽装には、得られる利益と見合わない罰が待つ。
2008・7・4
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