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NIKKEI NET

社説 世界的株安の警告を真剣に受け止めよ(7/4)

 世界の株式相場の下落が目立つ。震源地は米国だ。ガソリン高騰などの影響で消費が落ち込み、景気の先行きに悲観的な見方が強まっている。住宅バブル崩壊を受けた金融不安にも終息のメドが見えない。

 ドル安がさらに進行し、これと表裏一体の原油や食料の価格高騰は、世界にインフレを広げつつある。株安は市場が発する警告だ。世界経済が深刻な危機に陥るのをいかに防ぐか。洞爺湖サミットに集まる各国首脳は、株安の警告に真剣に応える必要がある。

冷え込む米国の消費

 日経平均株価は3日までの11日間、連続して下落した。54年ぶりという続落記録である。日本だけではない。今年1―6月で見ると、カナダやロシアなど資源高で潤う国を除けば、ほとんどの国の株式相場が下落した。

 世界の経済はこれまで米国の消費に大きく頼ってきた。だが、米国の消費者の景況感を示す消費者信頼感指数は、1992年以来の低い水準に下がった。金融危機が一服したとの観測で米国の株価は一時回復したものの、その後は5月初旬以降すでにダウ工業株30種平均が1割以上も下げている。対米輸出が打撃を受けるとの懸念が広がり、世界の株安につながったのだ。

 消費者心理が冷え込んだ要因は主に2つある。まず1バレル140ドルを超えた原油価格の高騰だ。ガソリン高が逆風となり、6月の新車販売台数は前年同月比18%減った。第二次石油危機でクライスラーが経営危機に陥った80年前後に匹敵する市場の縮小だ。ゼネラル・モーターズ(GM)の急激な経営悪化の可能性も指摘されるようになり、GMの株価は54年以来の10ドル割れになった。

 ガソリン高で外出も減ると、消費の低迷に拍車をかける。コーヒーチェーン最大手のスターバックスが、米国内の店舗の5%に当たる600店舗を閉鎖するのは象徴的である。

 もう1つの要因は金融危機の懸念がぶり返したことだ。住宅価格の下落は止まっていない。米金融機関は住宅ローン関連で巨額の損失を計上してきたが、住宅価格の下落が追加損失を招き、経営悪化につながるとの懸念が再燃した。銀行の財務体質の悪化は貸し渋りにつながる。

 企業の倒産や6カ月連続の雇用情勢悪化も重なり、消費者心理は一段と萎縮する可能性が出てきた。

 2つの要因が影響し合い、「負の連鎖」を生んでいる側面もある。サブプライムローン関連商品の暴落や株安で運用成績が悪化した機関投資家の資金は、上昇期待の高い原油先物などに向かいがちだ。その結果、原油価格が押し上げられると、企業のコスト増加や個人消費の停滞を招き、株価を押し下げ、住宅市場の下落も長引かせているといえる。

 経済情勢の不透明感が強まっているだけに、世界の政策当局には細心のかじ取りを求めたい。足並みの乱れを市場に感じさせるような事態は避けなければならない。

 欧州中央銀行(ECB)は3日、13カ月ぶりに政策金利を引き上げた。6月の消費者物価指数が前年同月比で4%に達し、インフレ懸念が高まっているのに対応したものだ。インフレ圧力の高まりを懸念しているのは米連邦準備理事会(FRB)も同じだが、こちらは金融不安を抱えて利上げには動けない状況だ。

 米欧間の金利差拡大に着目してドルを売る動きが加速すれば、金融市場に混乱が生じかねない。

金融危機の克服がカギ

 無秩序のドル下落は望まないとのメッセージを日米欧が共同で発するなど、協調に揺らぎがないことを示すべきだ。87年のブラックマンデー(株価大暴落)は米欧に亀裂が生じたとみられたことが引き金だった。その教訓を忘れてはならない。

 より重要なのは、市場にとって最大の不安材料である米国の金融危機の克服である。住宅ローン債権を担保にした証券化商品への投資で巨額の損失を出した米金融機関はすでに、中東産油国の政府系ファンドからの出資などで資本増強に動いている。だが、適切な資本規模を維持するには650億ドル以上の追加的な増資が必要との試算もある。

 米当局は金融機関に一段の資本増強を促すとともに、危機回避に必要ならば資本不足の金融機関への公的資金注入もためらうべきではない。さらに問題の根もとにある歯止めなき住宅価格下落についても、積極的な政策対応をすべきだ。政府系機関による住宅ローン債権の買い取り促進などが課題になる。原油先物市場での投機をどう落ち着かせるかも焦点となる。

 日本も米国と同様、物価上昇と景気悪化の2つのリスクを抱える。米欧に比べれば物価上昇率は低いが、原油高などの持続によりインフレ予測が高まらないかどうかを引き続き注視していく必要があるだろう。

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