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社説

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洞爺湖サミット―「G8」の限界を超えて

 洞爺湖サミットの正式メンバーは日本、米国など8カ国の首脳だ。主要国とは言うものの、この顔ぶれで果たして世界が抱える難題に解決の道を探れるのか。もっと参加国を広げるべきではないか。そんな声が出ている。

 代表的なのは、サルコジ仏大統領が提唱している中国、インド、南アフリカ、ブラジル、メキシコなどを加える案だろう。アラブ・イスラム圏を入れるべきだという意見や、逆に米中2カ国だけでいいという極論もある。

 確かに、サミットが始まった75年のころと比べ、影響力を持つ国々の地図は大きく変わった。

 中国を抜きに世界経済を語ってどれほどの意味があるのかという疑問はもっともだし、インドやブラジルも存在感を増している。原油などの資源国の動向、国境を超えて動く投資ファンドも世界経済に無視できない力を持つ。

 世界の構造変化を踏まえて、サミットはこれまでも自らの姿を変容させてきた。冷戦終結後、ロシアを正式メンバーに加え、西側主要国の集まりという当初の性格を一変させた。

 2000年の沖縄サミットではアフリカ諸国との対話の場をもち、以後も中国などの新興国の首脳が招かれ、交流するようになった。

 今回の洞爺湖では、3日間の日程のうち本来のG8首脳だけの会議は1日だけしかない。あとはアフリカ諸国首脳との会合や、中国、インドなどを含めたG13、さらに豪州や韓国などが加わるG16の首脳会議が開かれる。過去最大規模の20人以上の首脳が集まる。

 8カ国だけで話しても意味がないテーマが、それだけ多くなった。地球温暖化をはじめ、原油や食糧の高騰などにどう立ち向かうか、問題ごとに顔ぶれの異なる枠組みで対応せざるを得なくなったということだろう。

 こうした問題では、サミットとは別の舞台でも協議が進んでいる。

 6月にローマで開かれた国連食糧農業機関(FAO)の食糧サミット、韓国での温室効果ガスの主要排出国会議(MEM)、サウジアラビアでの主要産油国・消費国の閣僚会合などだ。

 だが、食糧サミットでバイオ燃料をめぐって各国が激しくぶつかるなど、利害の対立は深まる面さえある。議論は洞爺湖に持ち越されるが、どれも容易に出口の見つかる問題ではない。

 参加国がいかに問題意識を共有し、ともに解決に努力していく意思を確認できるか。それが拡大G8サミットに課された最大の役割だ。サミット参加国の数や枠組みをめぐる議論もあっていいが、対話の中身をいかに価値あるものにするかが先決だろう。

 世界が直面する危機は深い。指導者たちはどこまで結束できるのか。単なる外交ショーで終わっては、G8の限界がいよいよ露呈する。

タクシー再規制―緩和の本旨に立ち戻れ

 「規制緩和の象徴」といわれてきたタクシー業界で、再規制の動きが本格化してきた。台数の過剰にあえぐ業界の都合を最優先したもので、これではゆがんだタクシー業界の構造を正すことにはならない。

 国土交通省は3日、台数が増えている地域では新規参入や増車を制限できるようにする再規制案を、審議会の作業部会に示した。供給過剰が深刻な地域では減車も指導できるようにし、道路運送法の改正案を年明けの通常国会に提出する考えという。

 02年の規制改革により、タクシーの新規参入と増車は原則自由になった。この結果、01年度に20万台だった全国の法人タクシーが06年度は22万台に増え、拾いにくかった夜間でも乗りやすくなるなどの効果があった。

 しかし多くの地域では、台数が増えても全体の売り上げは減少した。苦しくなった業界は昨年から、全国90の運賃ブロックのうち約50地区で運賃を値上げした。これが逆効果だった。たとえば東京では、12月の値上げから5カ月連続で営業収入が前年同月を下回った。乗客から敬遠されたのだ。

 これでは経営が立ち往生するはずだ。だが不思議なことに、タクシー業界は全体として黒字を保っている。コストの中心を占める運転手の賃金が「歩合制」だからだ。売り上げが減れば賃金も減るので、会社は黒字を確保できる。この状態が、売り上げが落ちたら更に増車して利益を確保する、という悪循環を生んでいる。

 こんな構造を温存したまま台数を規制すれば、業界は楽になって喜ぶだろうが、お客や運転手には何のメリットもない。

 台数が過剰になれば経営が赤字になり自然と台数が減っていく。肝心なのはこのメカニズムを働かせることだ。

 それにはまず、営業の悪化が運転手の処遇に一方的に押し付けられないようにすることである。歩合給の割合を引き下げ固定給を上げさせる規制を導入したらどうか。あるいは、無理な長時間運転をさせるような会社は、減車させたり営業許可を取り消したりする仕組みは考えられないか。

 同時に、運賃やサービスの内容をもっと自由にすべきだ。02年の規制緩和で台数は自由にしたが、運賃や営業方法の自由化には業界の反対が強く、規制を残した。業界規制の緩和が不徹底だったことが、ゆがんだ増車競争を生むことにもなっている。

 様々な運賃体系やサービスに業者自身が知恵をしぼり、顧客にとって魅力あるものにする。料金が高くなりすぎて客が減ったのなら、料金を自由化して納得が得られる水準をさぐる。それができない業者は退場する。そうした自然の流れを活用したらいい。

 規制改革の本旨に立ち戻るべきだ。

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