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スローライフ スローセックス:ピルが環境を破壊するって?

 2ちゃんねるで「Dr.北村 ただ今診察中」第145話の「ヴァギナの品格」が低俗?と評価されていることを知って、がく然としました。そんなだから、望まない妊娠や性感染症が後を絶たないのです。僕は自信をもって科学者の端くれとしてこのコラムを書き続けています。今回はピルと環境を話題に……。

 「ピルを服用して3年ですが、私にとってピルはなくてはならない存在になっています。生理痛が重く、日常生活に支障をきたすようになり、生理に対しては苦痛を通り越して恐怖さえ感じていました。でも、私のピル服用を知った先輩薬剤師(男性)から『ピルは環境ホルモンだから即刻止めた方がよい』といわれてショックを受けました」というのは薬学部の鏡さん(23歳)。専門家でさえ、こんな誤解に満ちた情報を学生に流すのですから、一般の女性の混乱は言わずもがなです。だって、鏡さんは、ピルを服用して以来、笑顔で消退出血を迎えられるようになったというのですから……。

 まず、「環境ホルモン」という言葉に異論をはさまずにはおれません。というのは、ホルモンとは甲状腺から甲状腺ホルモンが、卵巣から女性ホルモンが、というように本来内分泌腺から分泌されるものを言います。ゴミ焼却炉から排出されるダイオキシンや殺虫剤、プラスチックなどに含まれる合成化学物質などが、結果としてホルモンに似た作用をするからといって、それを「環境ホルモン」と命名するのはおかしいわけです。「環境ホルモン」の正式名称、「内分泌かく乱化学物質」とは、生体のホルモン作用を阻害する性質を持つ外来性の物質であって、疑う余地のない明白な毒性諸変化に限定的に用いると定義されています。しかも、諸家の研究によれば、合成エストロゲンには、DDT、PCB、ダイオキシンのような蓄積性は認められませんし、活性汚泥(微生物)を適宜添加した場合、合成エストロゲンは100%消失すると報告されています。

 1985年にイギリスで7カ所の汚水処理施設での調査が行われ、3カ所から生理的な女性ホルモンと混じってピルの成分が検出されたとの報告があったことは事実です。しかし、ピルは英国女性に広く使用されている薬剤であって、3カ所に限られていることに疑問を感じますし、下流でローチと呼ばれる雌雄同体の魚が発見されたとはいえピルが原因であると結論づけているわけではないのですから、これをもってピルが環境汚染につながると論じるには相当な無理があります。

 わが国で使用されている低用量ピル一錠中のエストロゲンは0.03mg程度、これが10日間で35±7%が尿中に、56±10%が大便に排泄されると言われています。その一方、妊婦の場合、一日の尿中エストロゲン排泄量は28mg、ピルの933倍にも達しています。ちなみに、ピルを服用していると生理的な女性ホルモンの分泌は抑制されますので、ピル服用者の一日尿中エストロゲン排泄量は、妊娠していない女性の場合の0.042mgよりもさらに少ない計算になります。これでは、「女性よ排尿するな、女性よ妊娠を控えろ」と叫んでいるのと同じです。しかも、それは決して人間にとどまるものではありません。地球上に生息する動物のすべてが性ホルモンを糞尿中に排泄しており、仮に合成エストロゲンの排泄を問題にするならば、去勢牛肥育の体重増加を目的に投与されたり、前立腺癌の治療で服用されるエストロゲン量は、女性が服用するピルの用量の比ではないことを知るべきです。

 現在そして未来の住みやすい地球環境を作っていくことは、私たちの大きな責任であり、豊かさの代償とも言える環境汚染に無関心でいられないのは当然のことです。とはいえ、ピルはあくまでも個々の女性が選択して使う避妊薬であり、ダイオキシンのように多数の人間に無差別に影響を与える化学物質ではありません。世界保健機関をはじめピルの使用を認めている国々で、環境汚染を理由にピルの承認を取りやめた国はないのです。

2008年7月3日

 

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