（あまりにも拙い広島市の「IT」推進策）
秋葉市長は、2007年4月の組織改正で、ITビジネス振興担当を創設しました。これまでITに無縁だった担当課長（本人も相当困ったようです）の下に役付職員3人を擁する組織です。人件費だけで4,000万円以上。ビッグプロジェクトです。記者会見で組織の目的を「ひとつにはITを活用して起業する人の支援、既存企業の市場経済の世界化、これは市場の拡大ですが、そのための対応促進、それからビジネスマッチングの機会の拡大など、有効なITを活用した経営支援、そしてITビジネスによる障害者福祉施設の自立支援といったようなことを目的に抱えていますが、具体的な業務としては、ITを活用して起業する人を養成するシステムの構築や、企業におけるITの活用方法の相談や指導、ITを活用した情報交換システムの充実など、ITに関連した起業、経営支援を行うのが主な業務です。それと、これは情報政策部門と関連して、市内にITを活用するための基盤整備を同時に進めていく仕事を進めてもらいたいと思います。」と秋葉市長はお答えになられました。今読んでも難解で何を言っているのかよく判りません。当時の市の職員ですらいったい何をするのか理解できませんでした。ITビジネスの振興といっても、するべき分野は多岐にわたります。半導体やパソコンメーカーの誘致、研究機関の設立、学校を整備しての研究者の養成と供給、ソフトウエアメーカーの誘致･育成、ソフトウエアメーカーのビジネスマッチング機会の創出、技術者の育成と誘致、技術者の労働条件の改善と身分の保障・・などなどやるべきことは幾らでもあり、その全てをバランスをとりながら、かつ、広島市の都市経営資産を総合的に勘案し、戦略をもって選択と集中をもって取り組んでいかなければならないのです。
しかし、ようやくその内容を理解できたのは「アキバ塾」の塾長募集が始まった7月になってからでした。担当課長自らも言ったように、ITビジネス振興担当の業務とは（すなわち広島市としてのIT推進策の全ては）「アキバ塾」の開設と運営だけであったのです。
（単なるネット販売教室にすぎない「アキハバラ塾」これが広島市のIT推進策の全ては！）
わざわざ専門の担当課までつくり３人の役職職員を配置してまで始まった「アキハバラ塾」ですが、結局、蓋を開けてみると単なる「ネット販売の研修会」にすぎませんでした。毎回、数人程度の受講生（塾生と呼ぶらしいのですが）を募集し、職場まで講師を派遣し研修を行うとのことです。
（詳しくは塾長の河口知明氏（有限会社アートディレクト代表取締役）が開設されているブログhttp://d.hatena.ne.jp/artdirect/・ホームページ
http://www1.megaegg.ne.jp/~akibajuku/index.htmlをごらんください。）
ネット販売の研修会なら、今の時代、民間の研修機関がいくらでも行っています。ITコーディネーターの肩書きを持つコンサルタントも広島市には多数存在します。ホームページの作成やシステム開発などの情報産業企業がつくっている広島県情報産業協会の加盟業者のいくつかは、こうしたネットショップのWebサイトづくりが本業です。さらに、2008年4月にネットショップモール運営最大手の「楽天」が広島支社を開設しました。ネットショップの運営ノウハウでは、この右に出る会社は存在しないでしょう。
対象者を20名程度の絞ったネットショップの研修会もしくはネットショップの運営コンサルティングであれば、その後のコンサルティングも含めて広島市産業振興センターなど既存の組織で、それこそ200万円程度で行うことができるでしょう。もちろん、担当部局をつくることもありませんし、担当者を置くまでもありません。既存の事業の事業費を増額するだけで済みます。
2年目を迎えたITビジネス振興担当では人件費等を加えた総経費の額は軽く億を超えます。講師として専門の知識を身につけた者や実際にネットショップの運営や製作を行っている専門業者が多数広島に存在するにも関わらず、どうしてTシャツ販売の経営者を、わざわざ３人もの職員を要する専門部署までつくり、億単位の経費まで使ってネットショップ研修会の講師にする必要があるのでしょうか。全く常識では理解できない事業といえるでしょう。
（秋葉市長の個人的必要性から生まれた「アキハバラ塾」と、そのためだけに造ったITビジネス振興担当）
「アキバ塾」構想は、秋葉市長3選の際の公約の一つでした。もちろん、この時はどんなないようなのか具体的には説明されていませんでした。
2007年11月7日南区役所別館(南区地域福祉センター) 4階大会議室で行なわれた「ITによる地域経済の活性化」と題したタウンミーティングの席上、講師として参加していた塾長の河口知明氏は「・・ということで、私が秋葉市長に『アキハバラ塾』の構想を提案したのです。」という発言をされました（当日の様子は担当課が録音していますので、確認は可能と思います）。もちろん、口頭での発言ですから間違いもあるでしょうし、意味の取り違いもあります。しかし、秋葉市長の｢アキバ塾｣構想には河口氏の存在が大きな要因となっていたのは間違いないと思われます。
広島市は「アキハバラ塾」の開設に先立って塾長の公募を行いましたが、募集期間が１〜２週間程度しかなく、また、募集要項を見ても塾長の選考基準が不明確（客観的な選考基準はなく、本人に事業提案してもらい、これを審査するというような極めて曖昧な募集要項であったと記憶しています）でした。これを見て多くの職員が「既に候補者が決まっている出来レースだな」と理解しました。優秀な人材を広く求め、よく練られた優秀な事業案を採択しようとすれば、とてもとてもこんな短期間でそのような応募があると考えるはずがありません。
もちろん、そんな大方の職員の思いとはまったく別のこととして、塾長の公募は「適正」に行われ、「厳正で公平な」審査が行われたことと信じます。そうではないという明確な証拠の存在がない以上、そうであったと信じるしかありません。その結果、「偶然」にも意中の河口氏が塾長に選任されたのは秋葉市長にとっては「女性助役の公募」や「新球場のデザインコンペ」などと同様に極めて幸運な事でした。公募を繰り返しながらも、結局は彼の意中の候補者に決定してしまうというのは、ただただ彼の持つ「運の良さ」のおかげなのでしょう。
2期目の在職中に河口氏から「アキバ塾」構想を聞き、これに感化された秋葉市長が選挙公約として「アキバ塾」構想を唱え、これを実現するためにITビジネス振興担当という部署までつくり、「アキハバラ塾」事業を立ち上げた。河口氏が意中の人物であったにもかかわらず塾長を公募する必要があり、厳正で公正な審査の結果、幸運にも意中の河口氏が塾長として選任され、彼の意図どおりの「アキハバラ塾」が開設できた・・というのが大筋の流れと考えて間違いないようです。
「アキバ塾」構想が河口氏の提言を受け入れたものであったとしても、塾長の公募が適正・適法に行われたのならそれは何の問題もないことです。しかし、「アキハバラ塾」の内容が適正なものなのか、市費を投入する価値のあるものなのか、他の施策と比較して効率的で効果的なものであるのかは、徹底的に論議されるべきものであるのは当然です。
それにしてもこの「アキハバラ塾」は市民にとって高いものとなりました。
（他都市に大きく遅れをとった広島市のIT推進）
インターネットで瞬時に情報が検索できる時代ですから、他都市のIT推進の実態について知る事は難しくありません。例えば、仙台市は市役所自身のIT化について長期計画に基づき着々と事務を進め、民間についてもＩＴアベニュープロジェクトを進めています。これは、国の特区の指定を受け「IT起業化・中小企業の支援」「産学官連携による研究開発の促進」「高度IT人材の育成＞」「ITビジネスの交流拠点の運営支援」を基本にひとつの地区にこうした施設を集約させて推進していこうという事業です。まさに、IT推進に必要な施策を網羅した王道といえるべき方法でしょう。
多くの企業が集積している横浜市では、国に特区申請をして外国人技術者（プログラマーでしょう）の長期滞在を可能として、IT産業に人材を供給するなどこれも王道である人材供給策を実施しています。
広島市に隣接する東広島市では、広島中央サイエンスパークを中心として広大をはじめとする各種研究機関と連携し、強力にIT推進を進めています。広島中央サイエンスパーク内の松下関連企業では、携帯電話や携帯音楽器？などのソフト開発を進めています。IT推進が雇用対策などに実際に繋がっているのです。
これらに対し、広島市ではこれまで何ら有効で計画的なIT推進策を実施してこなかったうえに、「アキハバラ塾」と称して単なるネットショップの研修・コンサルティング事業をわざわざ4人もの専従体制をつくって実施したにすぎません。これでは彼我の距離は縮むどころか大きく引きはなされ、彼らの背中さえも視野から消えてしまっています。秋葉市長の下、今の広島市政では絶望的なまでにIT推進施策は遅れているといっても言い過ぎではありません。
今すぐにでもこうした偏ったIT推進施策を見直し、広島にある都市経営資源を洗い直し、戦略的な中長期的なIT推進計画をたて、全庁あげて取り組むべきです。
（あるべきIT推進施策）
何事でもそうですが、IT推進においても奇策があるはずもありません。IT産業の育成に必要な全ての要素をバランスをとりながら、かつ、広島市の都市経営資産を総合的に勘案し、長期的な戦略のもと、選択と集中をもって取り組んでいかなければならないのです。
ざっと思いつくままに列挙するだけでも、学校や研究機関と連携した人材の育成と供給、ITベンチャー企業の起業支援、IT関連企業（ハード・ソフト両面）の誘致と支援、IT関連企業の受注機会の拡大・マッチング機会の増大、在広企業におけるＩＴ推進の啓発と地元IT関連企業への受注増化、広島市役所自身のIT化促進、地域ホットスポットの拡大などのインフラ整備、技術者の労働条件改善に伴う定住促進、研究面における産学連携・・などがあるでしょう。
いずれの分野も広島市では大きく立ち遅れているのです。同じ時間と金をかけるのなら、単なるネットショップの研修･コンサルティング事業に過ぎない「アキハバラ塾」ではなく、どうして総合的なIT推進計画の策定に力を傾注していただけなかったのか本当に残念です。「アキハバラ塾」に時間と金を費やした結果、広島市のIT推進は他都市にまたもや大きく遅れてしまいました。もう、挽回は不可能だと思います。
（新女性副市長にそれでも期待する）
それでも、新女性副市長に私は一部の望みをかけたいと思います。もちろん、彼女を個人的知る者ではありませんが、経歴を見る限り、少なくとも今の広島市では最もIT関連について見識がある方のようです。これまでITに何の関係もなかった職員が、突然、ITビジネス振興担当課長になる広島市です。人材がいるかいないかという以前の問題として、人材というものに何の価値も置いていないのが広島市です（確かに、ITビジネス振興担当の役割が「アキハバラ塾」の実施にあるのなら、ITに関する知識など必要ありません。予算どりや公募等に当たっての議会対応など、通常の行政事務の知識で十分です）。専門家と言える人材をこの度入れることによって、秋葉市長と協議ができる体制が整ったことになるのではないかと期待しています。
今後、「アキハバラ塾」は継続するにしても、他のもっとすべき緊急性の高いIT推進施策がやっと実施に移されるのではないかと期待する自分は、やはり、考えが甘いのでしょうか。
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