◆「債務の解決」うたう、「整理屋」「紹介屋」とは。
「借金の悩みを解決します」「相談は無料」。こんな広告やチラシが出回っている。多くは、「整理屋」「紹介屋」と呼ばれる違法な手段で借金を整理するグループだ。全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会や多重債務問題に詳しい弁護士によると、多重債務者に法外な料金を要求したり、還付金を相談者に渡さないなどの被害が出ているという。
債務整理は、弁護士や一部の司法書士にしか認められていない。資格がないのに報酬を得る目的で債務の整理をしたり、弁護士などを紹介する行為は「非弁活動」として弁護士法で禁じられている。
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東京都内に住む70代の主婦は、ヤミ金融業者数社からの借金約20万円を抱えていたところ、借金を解決するという民間ボランティア団体の男性を知人に紹介された。「債務整理には2万円の着手金が必要」と言われ、金を支払った。その後、解決金としてさらに約50万円が必要と言われた。高額なため不審に思い、団体の事務所に行ったが空き家で、男性とは連絡が取れなくなった。
また、茨城県内の60代の男性は、複数の消費者金融から多額の借金があった。新聞の折り込みチラシで、無料で借金の相談に応じるというNPO法人を知った。男性が連絡すると、都内の弁護士を紹介され、20万円を支払うと、借金返済の催促はなくなった。その後、弁護士と連絡が取れなくなったため、弁護士会に相談。弁護士は死亡し、利息制限法を超えて本来支払う必要のない約400万円を消費者金融3社から還付されながら、男性に渡していなかったことが分かった。
こうした「整理屋」「紹介屋」と呼ばれるグループは、都内だけで約100団体に上るとみられ、多くは「無料相談」をうたう。
全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会で活動する黒沢賢一司法書士は「整理屋などに相談し、とりあえず借金返済の催促が止まることで安心するため、被害があまり表面化しない」と話す。
整理屋や紹介屋と提携している弁護士や司法書士もいる。多重債務問題に詳しい宇都宮健児弁護士は「提携弁護士の事務所は広告を出して多重債務者を集めている。弁護士は相談者と面談しないか、5分くらいの面談で終わり、あとは整理屋に任せている。弁護士には整理屋から顧問料が支払われている」と指摘する。
一方、NPO法人の認証を受ける整理屋や紹介屋もあり、信用した消費生活センターが、実際には整理屋のNPOに相談者を紹介したり、NPOのポスターを掲示したこともあった。公的機関の消費生活センターや国民生活センターと似たような団体名を名乗るグループもある。
宇都宮弁護士は「多重債務者の多くがどこに相談していいのか分からず、被害に遭ってしまう。困ったら弁護士会や司法書士会で弁護士や司法書士を紹介してもらうのが一番安全」と話している。【板垣博之】
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■主な整理屋事件
08年 2月 貸金業者から多重債務者のあっせんを受けて債務整理していたとして、大阪府警が大阪弁護士会所属の弁護士2人を弁護士法違反容疑で逮捕。弁護士は業者らに弁護士報酬から1回5万~10万円を支払う約束をしていた。
07年 5月 NPO団体などを名乗り、弁護士の名義を借りて債務整理を行ったとして、警視庁が整理屋グループ幹部ら11人を弁護士法違反容疑で逮捕。東京や千葉、神奈川で市民団体を設立し、毎月約100万円の名義料を弁護士に払い、多重債務者から報酬を受け取って債務整理していた。
06年12月 大阪市の整理屋や提携する司法書士に損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁が非弁活動に当たるとして報酬相当額や慰謝料など37万円を支払うよう命じた。
06年10月 金融業者から多重債務者の債務整理をあっせんしてもらったとして、大阪府警は兵庫県の弁護士を弁護士法違反容疑で逮捕。07年5月に大阪弁護士会が業務停止6カ月の懲戒処分。
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■主な相談先
▽日本弁護士連合会人権第2課(弁護士会を紹介)電話03・3580・9508
各弁護士会の相談センター
http://www.nichibenren.or.jp/ja/link/soudan_center.html
▽日本司法書士会連合会(司法書士会を紹介)電話0120・552・059
各司法書士会の相談センター
http://www.shiho‐shoshi.or.jp/support/
▽法テラス(日本司法支援センター)電話0570・078・374
http://www.houterasu.or.jp/
▽全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会電話03・5207・5507
http://www.cre‐sara.gr.jp/
毎日新聞 2008年7月3日 東京朝刊