経済財政諮問会議の専門調査会が「21世紀版前川リポート」をまとめた。日本経済が目指すべき姿を描いた形だが、政府は自らが血を流して、硬直した霞が関の改革から断行する必要がある。
「グローバル経済に生きる」と題したリポートは、諮問会議の「構造変化と日本経済」専門調査会が二月以来、四カ月の議論を経てまとめた。「日本経済の『若返り』を」との副題と併せてみれば、リポートが発信したいメッセージは明らかだ。
世界経済のグローバル化が急激に進む中で、日本は企業や人材、制度の新陳代謝を急がなければ取り残されてしまう。そう訴えている。そのために、正規と非正規雇用の格差をなくしたり、企業は合併・買収を通じて、生産性を高めるべきだなどと提言した。
現状認識も問題解決の方向性にも、とくに異論はない。専門調査会の会長を務めた植田和男東京大学大学院教授をはじめ、委員の顔触れは、いずれも日本経済に対する深い知見と国際感覚に富んだ識者ばかりである。
この国の問題は正しい認識と処方せんができても、いざ実行に移そうとすると、各方面から猛烈な抵抗に遭って、一向に進まない点にある。その最先端に立っているのが、実は霞が関なのだ。
たとえば、リポートは「人材が業種・分野・官民のタテ割りの壁を越えて、さらには国境を越えてヨコに動ける社会をめざす」と目標を掲げている。縦割り社会の最たるものは中央省庁である。
いま進行中の公務員制度改革はまさに省庁の縦割りを排して、真に国家のために働く官僚をつくることが大きな狙いだが、霞が関は財務省を先頭に猛烈に抵抗した。省庁あっせんの天下り構造が崩壊することを懸念したためだ。
各省庁が関係の深い企業や団体に官僚を随意契約などの「お土産付き」で送り込む天下り構造ほど、縦割り社会を示す例はない。
リポートは「道州制を十年以内に完全に実現する。その際、課税権を大胆に移譲し、地方が経済と財政の設計を行えるようにする」とも提言する。もちろん賛成である。
だが、一級河川の管理権限を地方に移す程度ですら、国土交通省は激しい抵抗を続けた。課税権を大胆に移譲するとなれば、財務省の反対は目に見えている。国民はとっくに見抜いている。政府が建前を語る時間は過ぎた。後は、しっかり断行する以外にない。
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