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正規職員を今より2割減らし、懲戒処分歴のある職員を採用する場合は1年契約の有期雇用に――社会保険庁を解体して新たにつくる「日本年金機構」の姿について、有識者会議がそんな最終報告をまとめた。
ほかに、正規職員のうち約千人を外部から採用▽厚生労働省からの腰掛け的な幹部の採用を認めない▽保険料未納者への督促などの業務も外部委託を進める、などの方針を示した。
政府はこの内容に沿った基本計画を近く閣議決定し、2010年1月に新組織を発足させる考えだ。
あきれるばかりの仕事ぶりだった社保庁は、根底からつくり変えなければならない。新組織には民間の力も借りて新しい空気を入れるべきだ。
ただ、年金の記録がしっかり管理できるのか、保険料の未納に歯止めをかけ納付率を上げられるかという点から見ると、なお気がかりな点もある。
そもそも、社保庁改革は「年金記録問題の全容も分からないのに拙速だ」という野党の反対を押し切って、昨年6月に国会で決まった。不安は的中し、宙に浮いた5千万件以外にも、紙台帳からの入力ミスが見つかるなど、問題は広がるばかりだ。
舛添厚労相は「日本年金機構ができるまでに過去の問題はクリアしたい」と述べていたが、記録問題への対応が新組織へ持ち越されることは確実だ。
とくに当面は、紙台帳との突き合わせなどによる記録の確認・修正に人手がかかる。人を減らし通常業務をこなしつつ、それをどう進めるか。
新組織へ一新するには、できるだけ職員を入れ替え、合理化を進めることが大事だ。その一方で、年金の仕事は専門性も高く、移行職員を減らしすぎると仕事が滞る恐れがある。両者の兼ね合いは、よくよく考えなければならないだろう。
記録問題の反省点として、社保庁の組織としての一体性のなさが無責任な体制を生んだ、と政府の年金記録問題検証委員会は指摘している。外部委託を増やして業務がいろいろな民間会社に分散した時に、そうした問題が再び発生しないよう、工夫を凝らさなければいけない。
外部委託をする仕事には、保険料の未納者に対する督促や、免除手続きの勧奨も含まれる。経費削減を優先し、仕事の手を抜くことがないよう、どのように仕組みをつくるか。個人情報の取り扱いについて、国民の不安を取り除くことも課題だ。
福田政権はこれらの点について目配りして、組織のあり方と運営方法を詰めていかなければならない。
職員のリストラ、組織のスリム化は進んだけれど、肝心の年金業務はがたがた、というのでは困る。改革の原点を忘れないようにしたい。
利潤追求に急なあまり、防火意識が極めて薄く、防火や避難、排煙の設備を役に立たないまま放置していた。
東京地裁はこう指摘し、ビルとテナント双方の経営者らに業務上過失致死傷罪の有罪判決を言い渡した。7年前に飲食店の客や従業員ら44人が犠牲になった東京・歌舞伎町の雑居ビル火災にようやく司法の判断が示された。
火事の原因は放火とみられ、犯人はいまも分かっていない。被告側は「防火管理をする立場にない」「出火を予想できなかった」と無罪を主張した。判決はこれを退け、ビルとテナントの経営者の責任を認めたうえで、「防火態勢がきちんと施されていれば死傷者は出なかったろう」と述べた。
雑居ビルではテナントの入れ替わりが激しく、また貸しも少なくない。そうした実情を考えると、テナントだけでなく、ビル側の防火責任も明確に認めた判決の意味は大きい。安全に目配りしなければ、その責任を問われることを経営者は肝に銘じるべきだ。
判決は、被告らが被害者に見舞金を払っていることなどを理由に執行猶予にした。今後、同じような惨事が繰り返されれば、実刑を科せられる経営者も出るだろう。
火災現場のビルは、全部で500平方メートルほどの床面積しかない5階建ての典型的な「ペンシルビル」だった。
避難するときに使える階段は建物内部にあるだけで、そこには段ボール箱や用具がところ狭しと置かれていた。消火設備は消火器しかなく、防火扉は物が置かれていて閉まらなかった。排煙用の窓は内装などによってふさがれていた。いったん火が出れば、八方ふさがりの状態だったのだ。
全国のビルでは、こうした状態が改善されたのだろうか。
この火災をきっかけに、消防法が改正され、消防署の命令に従わない悪質な事例では罰金が引き上げられた。
消防白書によると、火災のあった01年には、雑居ビルのうち、自動火災報知機を設けるなどの防火管理を怠っていたケースが9割を占めた。5年後には5割にまで減ったが、違反ビルはなかなかなくならない。
あちこちの雑居ビルの非常階段を見ると、「この前に物を置かないでください」という掲示の前に、おしぼりなどの入った段ボール箱が堂々と積み上げられている。消防署は立ち入り検査をさらに徹底してほしい。
こうしたビルで働く従業員や利用する客も、自ら身を守ることを忘れないようにしたい。
従業員は防火設備に不備があれば経営者に改善を求めてほしい。客は階段や通路に物を置いているようなビルには出入りしない方がいい。それが防火態勢のお粗末なビルやテナントをなくすことにもつながる。