医療介護CBニュース -キャリアブレインが送る最新の医療・介護ニュース-

CBネット |  医療介護CBニュース

政府(厚労省他)


薬害の再発を防止できるか <上>

 医薬品などの販売を承認するための審査や、市販後の安全対策などの業務を担当する職員の大幅な増員に向けた検討が、厚生労働省の審議会で進められている。表向きは、「薬害肝炎事件の検証」と「再発防止のための医薬品行政のあり方検討」を掲げているが、社会保険庁の解体に伴って削減される職員の“受け皿”となる新たな行政組織(医薬品庁など)を創設したい官僚の思惑が見え隠れする。薬害肝炎事件などの問題を引き起こした厚労省の抜本的な改革に乗り出す舛添要一厚生労働相と、これに激しく抵抗する官僚との争いが「医薬食品局」を舞台に繰り広げられる中、そのはざまで薬害被害者の団体が揺れている。(新井裕充)

【関連記事】
薬害の再発を防止できるか <下>
抜本的な医薬品行政の改革に決意―舛添厚労相
医薬の行政改革、組織の在り方に議論錯綜
抜本的な医薬品行政の改革に決意―舛添厚労相
新薬開発か、薬害根絶か(1)

 厚労省は6月30日、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」(座長=寺野彰・独協医科大学長)の第3回会合で、「中間とりまとめ案」を提示し、医薬品の承認審査や安全対策などの業務を一括して行う新たな組織として、「A案」と「B案」の2案を示した。

 A案は、承認審査や安全対策などの業務を「厚労省医薬食品局など」が一括して行い、審議会が厚労相に答申する。これに対し「B案」は、独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA、近藤達也理事長)が一括して行い、同機構が厚労相に答申する。A案とB案いずれの場合も、「最終的には大臣が全責任を負う」としている。

 現在、医薬品の承認審査は「PMDA」と厚労省の「薬事・食品衛生審議会」で重複して行われており、“実質的な審査”は「PMDA」が担当している。「PMDA」から上がってきた報告書などに基づき、有名大学の教授らで構成する同審議会が“形式的な審査”を行い、最終的に厚労相が承認している。
 この「二重審査」の仕組みを一本化して効率化を図る点ではA案とB案に違いはなく、「国に吸収する」か「PMDAに一括する」かが違う。

 この日は、新しい組織の在り方について、A案とB案それぞれのメリットやデメリットを中心に議論したが、意見を集約するには至らなかった。

■ 背後にある思惑
 
この検討委員会は、汚染された血液製剤を投与された患者がC型肝炎に感染した「薬害肝炎事件」などの反省を踏まえ、同事件の検証と薬害の再発防止、医薬品行政の見直しなどを目的に、今年5月に設置された。委員は、大学教授や病院の理事長、薬害被害者など計20人で、このうち薬害被害者の団体から2人、薬害肝炎事件の原告団から2人、同事件の担当弁護士1人が参加している。

 しかし、検討委員会の目的である「医薬品行政の見直し」をめぐり、厚労省改革に積極的な姿勢を見せる舛添厚労相を支持する委員のグループと、これに抵抗する厚生官僚に好意的な委員のグループが対立している。厚生官僚の背後には、“族議員”といわれる自民党の大村秀章衆院議員がいる。

 薬害の再発防止と薬事行政の見直しに向け、自民党の「薬事政策のあり方検討会」(座長=大村衆院議員)が4月にまとめた報告書では、医薬品の有効性や安全性を守るための仕組みづくりの重要性には触れられているものの、「現下の課題」として、「世界最高水準の医薬品を国民に提供」と「薬害の再発防止に最善・最大の努力」という2つの目的を併記している。見出しの順序では、「世界最高水準の医薬品提供」を「薬害の再発防止」よりも優先している。
 また、薬事行政の在り方については、医薬品の安全性の確保など「薬害の再発防止」につながる目的を“大義名分”に掲げ、新たな行政組織の創設へと結論を導いている。新たな組織に必要な人員は、「承認審査関係で約500人、安全対策関係でこれに匹敵する規模の要員として約300人を確保して、現行計画より300人程度の大幅な増員を図る」などとしている。

 医薬品の承認審査をめぐっては、海外で使用されている薬が国内で使えない「ドラッグ・ラグ」が問題となっており、開発から承認審査までのスピードアップを図るため、「PMDA」の審査官を大幅に増やす必要性が指摘されている。一方、薬害の再発や副作用被害の拡大を防ぐ観点から、「承認審査や市販後の安全対策に当たる職員を増やすべき」との主張もあり、承認審査の問題は「ドラッグ・ラグの解消」と「薬害の再発防止」の二つにかかわる。

 今回の検討委員会は、薬害の再発を防止するために医薬品行政の在り方を見直すことが本来の狙いだが、舛添厚労相と官僚、薬害被害者、PMDA関係者など、それぞれの思惑が複雑に交錯している。承認審査や安全対策に当たる職員を増やし、新たな独立した機関を設置するという点では一致しているが、「設置場所」や「組織の在り方」をめぐって意見が分かれており、医療事故の調査に当たる「医療安全調査委員会」の創設に向けた議論に似ている。

■ 「国民のための組織を」―舛添厚労相
 この日の会合での意見交換で、寺野座長は「議論が十分に煮詰まらなくてもいい。(A案とB案の)両論併記もありうる」と前置きした上で、意見を求めた。
 清水勝委員(西城病院理事)は、新たな組織の独立性を強調し、「厚労省は医療行政などの将来像を考えることに注力すべきで、ほかにやることがある。(新たな組織は)独立性の高い、義務と責任を持った機関として明確に位置付けるべきだ」と述べた。

 これに対し、花井十伍委員(全国薬害被害者団体連絡協議会世話人)は、「国の権威」に縛られずに国民の健康や安全を考える組織をつくる必要性を強調。「厚労省の中でやるから今までこうなってきた。この検討会は、(厚労省という)組織を抜本的に見直す改革のためか。エイズやサリドマイドなどの問題が発生した時に『ちょこちょこ』とやってきたような会議と同じであれば、薬害の被害関係者が5人も参加する必要はない」と述べた上で、舛添厚労相の考えをただした。

 舛添厚労相は「花井さんの考えはわたしの原点でもある。反省すべきは反省し、謝罪すべきは謝罪する。どういう組織でもいい。二度と薬害を繰り返さない、そういう目的が遂げられればいい」と答え、現在の厚労省が薬害の再発などを防止できるような組織になっていないことを批判した。
 「今までなぜ、こういうことが起きたか。参院の比例代表に日本医師会から推されている人がいる。歯科医師会から推されている人、薬剤師会から推されている人がいる。そういう方々は厚生労働大臣にふさわしくない。医師会の代表者は医師会に反対できないから、厚生労働大臣になってはいけない」

 舛添厚労相は、組織の中では自由な発言が制約されることを問題視し、自由な議論ができる組織をつくる必要性を強調。「22歳で役所に就職して定年までいれば、どんなに優秀な人でも組織人として振る舞う。そうではなく、『この薬は危ない』と言える自由なフォーラムみたいな組織にすべきだ。最後は大臣が責任を取る。そのために使いやすい道具を使えばいい。国民のために薬の安全性を判定できる組織であればいい」

(続く)


更新:2008/07/01 20:33   キャリアブレイン


このニュースをメールで送る

ご自身のお名前:


送信元メールアドレス(ご自身):


送信先メールアドレス(相手先):


すべての項目にご記入の上、送信ボタンをクリックしてください。

ログイン-会員登録がお済みの方はこちら-

キャリアブレイン会員になると?

転職支援サービス

専任コンサルタントが転職活動を徹底サポート

スカウトシステム

医療機関からスカウトされる匿名メッセージ機能

医療介護ニュース

独自記者の最新の医療ニュースが手に入る!

キャリアブレインの転職支援サービスが選ばれる理由

【第17回】 全国医師連盟代表・黒川衛さん 全国の病院の勤務医らが参加する新しい組織「全国医師連盟」が発足した。医師会など既存の組織と比べて若手勤務医の会員が多く、病院医療の立て直しを目指して、勤務医の労働環境改善などの施策を訴えている。初代代表に就任した黒川衛さんが目指すのは、医師が活躍できる環境 ...

記事全文を読む

患者に寄り添う看護に重点医療法人社団昌栄会「相武台病院」(神奈川県座間市)24時間保育でママさん支援 厳しい労働実態から離職率が12.3%に達するなど、看護師の確保・定着が看護現場の重要な課題になっている。こうした中、神奈川県座間市の医療法人社団昌栄会相武台病院では、組織を挙げて働きやすい職場づくり ...

記事全文を読む

新人ナースの1日に密着!

埼玉県戸田市の戸田中央総合病院には、今年もたくさんの新人ナースが仲間入りしました。人に寄り添う日々の業務は、緊張の連続でもあります。新人ナースの一日に密着しました。

>>医療番組はこちら


会社概要 |  プライバシーポリシー |  著作権について |  メルマガ登録・解除 |  スタッフ募集 |  広告に関するお問い合わせ