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政府(厚労省他)


薬害の再発を防止できるか <下>


■ 「義務と責任」―A案

 舛添要一厚生労働相が所用で退席した後、寺野彰座長(独協医科大学長)が「もう少し時間を掛けて議論したい。本日は(A案かB案か)結論を出す必要はない」と述べた。
 西埜章委員(明治大法科大学院教授)は、薬害被害などの問題が発生した場合の責任の所在について、「大臣が最終責任を負うと言うが、『国』が負うのか『大臣』が負うのか」と質問。承認審査や安全対策などの業務を独立行政法人・医薬品医療機器総合機構(PMDA、近藤達也理事長)が一括して担当するB案を採用すると、「何のために、なぜ国が責任を負うのかがはっきりしなくなる」と述べ、公的な権限の裏側にある「義務と責任」を強調した。

 それまで沈黙を守っていた厚生労働省の高橋直人・医薬食品局長が、ここで発言。承認審査や安全対策などの薬事業務を「医薬食品局」などに一括するA案と、独立行政法人の「PMDA」に一括するB案について説明した上で、次のように述べた。
 「責任という言葉のとらえ方だが、(舛添)大臣は法律的なガチガチの意味ではなく、もう少し一般的な意味でお使いになったのだろう。法律的な意味で言えば、承認審査は行政処分であり、安全対策に必要な措置も行政処分。これは独立行政法人にはできないので、法的な責任は国にある」

 ここで清水勝委員(西城病院理事)が、医薬品行政の監視などを行う組織の設置も含めて議論する必要性を指摘し、「A案かB案か」という議論を疑問視。財団法人いしずえ(サリドマイド福祉センター)の事務局長を務める間宮清委員がこれに賛同し、「B案は丸投げ、A案は元に戻す案だが、ただ戻すだけでは十分ではないので、監視機関について真剣に考えていただきたい。この話を別にして、A案かB案かは議論できない」と述べ、他の委員からも“二者択一的な議論”に否定的な意見が出された。

 また、「PMDA」の運営費用の一部が製薬企業などからの収入で賄われていることを理由に、B案に否定的な意見も出された。清澤研道委員(長野赤十字病院院長)は、独立性や中立性が担保される組織である必要性を指摘し、「いろいろなところからお金が来ると、独立性は保てなくなる」と述べ、A案を支持した。

■ 「自由な議論ができる組織を」―B案
 薬害が発生した場合の体制など、担当組織の「義務と責任」を求める意見が相次ぎ、議論が厚労省側のペースで進む中、元PMDA審査官の小野俊介委員(東大大学院薬学系研究科准教授)が、「皆さんの意見とわたしは全く逆だ」と声を上げた。
 「権限とか、国(の組織)が良いなどと言うが、今までさんざんひどい目に遭ってきたのではないか。『よくお人よしになれるな』と思う。(医薬品庁などの)『ハコ』が重要なのではなく、組織の中で働く人が国民のことを考えて正しい判断を下せることが重要なのではないか。人を増やしたとしても、悪人が増えたら悪いことが増える。安全対策や承認審査をする人にとって、どのような組織が良いかを考えたとき、『公務員型』ではさまざまな制約に縛られて、正しく動けないのではないか。国民の健康を最大限に考えられる組織として、わたしはB案に賛成したい」

 山口拓洋委員(東大大学院医学系研究科准教授)もB案に賛成した。「公務員という立場だと、組織に縛られてしまう。(重い副作用が発生した抗がん剤の)イレッサに関して、PMDAでは自由な議論ができた。C型肝炎事件はPMDAに審査業務が移る前のこと。現在は、現場を知っていて患者のことを分かっている専門家が科学的な評価をしている」と述べ、「PMDA」の審査官が正しく判断できる組織をつくる必要性を訴えた。
 堀明子委員(帝京大医学部付属病院講師)も「上司に反論できる組織、自由に議論できる組織をつくっていかなければならない」として、B案に賛成した。

■ 薬害被害者の願いは届くか
 厚労省は、来年度予算の基本となる夏の概算要求に反映させるため、「中間とりまとめ」を急いでおり、次回7月7日の会合で、大筋の了承を得たい考え。質疑で、泉祐子委員(薬害肝炎全国原告団)が「これを取りまとめないと、予算が取れないのか」と尋ねた。
 厚労省側は「具体的な対策を提案していただければ、それだけ実現につながる」と回答。寺野座長は「十分に議論が煮詰まらなくてもいい。(A案とB案の)両論併記もありうる」と説明した。

 薬害の再発を防止するために担当職員を増員する必要があるという点では、薬害被害者の団体も一致しているものの、新たに創設する組織の在り方などに関しては、慎重な議論を望む声もある。
 薬害肝炎事件を担当した弁護士の水口真寿美委員は、6月30日の検討委員会に提出した意見書の中で、「中間報告書の取りまとめに当たっては、被害者の方々が納得できる説明と討議時間の確保についての配慮が必要」と求めている。

 また、検討委員会の目的として「薬害の再発防止」が挙げられているにもかかわらず、審議の重点が「市販後の安全対策」に偏っている点を問題視する意見もある。大平勝美委員(はばたき福祉事業団理事長)は、検討委員会に提出した意見書の中で次のように述べている。
 「薬害事件・副作用事件が起きたことから、その検証として再発防止策を検討する位置付けだが、事件が『起きない』、事件を『起こさない』構想はないのか。事件後の後始末を考えていくと、専門家や法律家などの、言葉は悪いがよりクールな関係に基づく議論が先行し、ヒューマンな信頼感を構築していく、医・薬・患者で協同していくこれからの医療づくりに逆行している」

 水口委員も、意見書の中で同様の懸念を示している。
 「論点整理は市販後安全対策を中心に行われているが、言うまでもなく、医薬品・医療機器の安全性を確保し、薬害を防止するためには、市販後の安全対策だけではなく、承認審査段階での安全性の吟味が必要。市販後に社会的な問題となる副作用被害の例を見ても、多くの場合、承認前の段階において、動物実験や臨床試験において示されていたシグナルが軽視されていたという場合が少なくない」

 この検討委員会には、「薬害肝炎事件の検証」と「再発防止のための医薬品行政の見直し」という2つの目的がある。
 薬害の再発を防止するためには、医薬品の承認審査前の段階で、審査官が“先入観”を持たずに副作用などを分析・評価することと、市販後に安全対策を講じることの両方が必要だが、「中間とりまとめ案」では、「すべての医薬品は何らかの副作用を伴っている」「承認段階で得られる情報には限界がある」として、市販後の安全対策を重視している。

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 ある薬事の専門家は「100%安全な薬はないので、再発防止策とは安全対策のことを意味する」と話す。確かに、承認審査の時点で把握できる情報には一定の限界があるため、市販後に収集された情報に基づいて十分な安全対策を取ることが、「再発防止」に最もつながるだろう。しかし、薬害事件につながる原因が承認前の段階にあると疑っている人はいないだろうか。「薬害」の定義も不明確だ。予想される範囲内の副作用は「薬害」ではないという理屈が、患者の立場からは理解しにくい。

 また、厚労省の組織の在り方を抜本的に見直すことが、「薬害の再発防止」につながるという考え方も分かりにくい。科学的に見える承認審査における判断が、“自由な議論”によって変化することが理解しにくい。今回、「薬害肝炎事件の検証」を検討委員会の目的にしたのは、開発段階から薬害発生までのプロセスを明らかにして、薬事の専門知識がない一般国民にも理解してもらうためではなかったか。

 一方、「薬害の再発防止」を名目に、社会保険庁の解体で削減される職員の行き場を確保し、人員増による「承認審査の迅速化」でドラッグ・ラグを解消しようという官僚の思惑に、薬害被害者の団体は気付いていないのだろうか。「二度と薬害を繰り返してほしくない」という被害者の願いが、置き去りにされてはいないか。
 厚労省の抜本的な改革を目指す舛添厚労相と厚生官僚との対立のはざまで、薬害被害者の思いは揺れていないか。

(完)

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更新:2008/07/02 18:19   キャリアブレイン


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