ケサン・ヤンキ・タクラ亡命政府外相(日本外国特派員協会)
中国政府とダライ・ラマ亡命政府特使の対話が北京で持たれた1日、同亡命政府のケサン・ヤンキ・タクラ外相が日本外国特派員協会で記者会見し、中国の報道規制を批判した。
ケサン外相は1944年、チベットの中心都市ラサで生まれる。亡命後はロンドンのダライ・ラマ法王事務所代表(1989〜97)、台湾事務所の初代代表(97〜99)、外務省秘書官(2000〜01)などを歴任。
外相はチベット支援活動のNGO「セーブ・チベット・ネットワーク」の招きで来日した。先進各国の首脳が集まる「G8洞爺湖サミット」に向けて世論を喚起しようというねらいだ。
ケサン外相は次のようにスピーチした――
今年3月10日から街頭に繰り出した平和デモは、メディアを通じ、チベット問題を世界に知らしめる契機となった。今回は、1959年、1989年のチベット民衆蜂起とは異なり、何が起こっているかが明かにされた。
(チベットを通過する)オリンピック聖火リレーが行われたこの数ヶ月間、僧院などでも、武装警察や軍により逮捕・拷問が行われている。チベット人にとっては厳しい情勢が続いている。
3月以降、メディアのアクセス、観光客の訪問が中断された。もちろん、限られたメディアは訪問を許されたが、当局の規制を受けたものだ。中国国営メディアではチベットが開かれたものだと報道されている。
チベット人への再教育プログラム、例えば共産主義教育、反ダライ・ラマ教育などが強制的に行われている。これがチベットの現状だ。言論の自由はまったくない(外相は質疑応答でも「言論の自由は全くない」を重ねて強調した)。
ダライ・ラマ亡命政府は長年中国当局と交渉を行っている。言語、アイデンティティ、宗教を尊重した、中国と平和共存した自治を望んでいる。今回のサミットでチベット問題が取り上げられることを望む。
亡命チベット人らによる中国への抗議集会(5月、代々木公園)
記者:
ダライ・ラマの後継者問題ですが、後継者はどうなりますか?現在のチベット亡命政府は民主政体ではないが、民主政体にシフトしますか?もし、将来の宗教指導者がチベットの人々の中から選ばれるのでないとすれば例えば、中国政府から指名されたとしたらどうなりますか?
外相:
去年9月、中国政府は憲法に則ってチベット人に宗教の自由を約束したが、(実際はその逆で)ますます不自由になっている。仏教を信じる人々の間で「(ダライ・ラマの)生まれ変わりを選ばねばならない」として大きな問題になっている(ダライ・ラマは転生するものであって中国政府が指名できるものではないからだ)。
中国の許しを得るとか、決定されるとかそういう問題ではない。ダライ・ラマの後継者を探し出し、選ぶことは信者の義務だ。政治的プロセスではなく、スピリチュアルなプロセスである。
記者:
ダライ・ラマの人望は大変あついと言われている。サルコジ大統領がEU大統領に就任するが、8月にダライ・ラマを迎えて各国指導者とチベット問題について会談することになっている。G8で迎え入れられるほどのものか?
外相:
ダライ・ラマのモラル、他者に対する傾注の姿勢、コンパッション(憐憫の情)はどの国のどんな人にも受け入れられるものだ。チベットの多大な苦難があったとしても、ダライ・ラマがいてよかったと思う。中国指導層が国際的に知られたノーベル平和賞受賞者に対して恐ろしい名前(呼び捨てにし、暴動を扇動しているなど)で呼んでいることは遺憾だ。
「セーブ・チベット・ネットワーク」は2日・3日の両日、東京・神田の学士会館でフォーラムを開き、チベット問題についての決議を上げる。決議文はG8の各国大使館に提出することにしている。中国大使館へは受け取りを拒否されても提出を試みる構えだ。