バベルの図書館[2004年03月24日(水)]

言語とは恣意的な記号列であって、それが意味をなすのは偶然である。

などと書くと「またわけのわからんことを」と言われそうだ。
仮に4文字からなる単語を考えてみよう。ひらがな85音と数字10個の、計95個の記号のなかから4文字を適当にならべて作られる文字列は「ああああ」に始まり「9999」で終わるまで95×95×95×95通り、つまり81450625通りもあるのだ。これが10文字の語を作る作業だったら、20文字だったら・・・と考えると、そのランダムな組み合わせのなかから意味を成すものになる可能性は限りなく低い。

伝説によるとバベルの図書館には、およそ存在可能な本がすべて保存されているそうな。
世界中の言語の、いかなる文字の組み合わせも、バベルの図書館のどこかの棚にかならずある。たとえば「あ」とだけしか書いていない本、「アAアAアA・・・」と2文字だけがずっと続く本、「今日は晴れた」とだけ書いてある本など、可能な文字の組み合わせをすべて網羅している。当然、スペースも文字に入るので、何も書いてない白紙の本もある。世界中の文字は無数にあり、また文字列の数に限りはないので、所蔵されている本の数は無限である。そういう無限の本の中のほんの一部のみが、偶然に意味をなす文章となる文字の組み合わせを作っている。

さてここで問題 (いきなりですが)。

このようなバベルの図書館は存在不可能なことを証明しなさい。

ただし、「無限冊の本が実在不可能だから」というのはナシ。もし仮に無限冊の本が実際に所蔵されていたとしても、その無限冊の本はすべての可能な本を網羅することができないことを証明していただきたい。バベルの図書館から洩れている本は、いったいどういう文字列を示した本だろうか。

<こたえ>
次のような本αを考える。バベルの図書館の本をすべて並べて、一冊目の本の一文字目とは別の文字をαの一文字目に書く。違う字であれば何でもよい。2冊目の本の2文字めとは別の文字をαの2文字めに書く。もし2冊目の本が1文字しか載っていない本であれば、2文字めを「スペースという字」とみなし、何か字を書きさえすればよい。3冊めの3文字とは別の字を・・・、N冊めの本のN文字めとは別の文字をαのN字めに書く・・・という作業を延々と続ける。
さて、この本αも、本である以上はバベルの図書館に含まれていなくてはならないはずだ。しかし、αはその作り方からして、バベルの図書館のどの本とも必ず一文字は食い違っているはずだ。ということは、このαはバベルの図書館の中には存在せず、図書館から洩れている本ということになる。つまり、無限冊の本を所有していたとしても、あらゆる文字の組み合わせの本を網羅した図書館というのは、論理的にあり得ないことになる。

この思考法は対角線論法といって、全体のなかから論理的整合性に反する矛盾を引き出すときによく使われる論法だ。無限であろうと有限であろうと関係なく、論理的に矛盾する存在をつくりあげる、という思考作業はなかなか面白い。こういう思考はかなり現実から遊離しているため、慣れが必要だろう。

論理学が敬遠される原因のひとつに、現実的な実感にそぐわない仮定に従って思考作業をすることの違和感があるらしい。「そんな図書館あるわけないじゃん」「どういう図書館なのか想像しにくいから考えられない」などと論理的思考をシャットアウトしてしまう人は、現実世界の中でしか思考ができないほど脳が硬直しているのだろう。頭が固い人ほど、「仮に・・・だったとすると」という仮定を一切受け付けない気がする。現実には、あり得ない可能性を考慮する必要などは皆無に等しかろうからそれでいいのかもしれないが、日常的な実感と論理的思考能力は対極の位置にある。「ありえない」を「あったとすると」というスイッチに切り替えることから、論理的思考が始まる気がする。

Posted at 12:21 | Linguistics | この記事のURL | Clip!! | コメント(0) | トラックバック(0)

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