ブリーディングについて考える
ブリーディングに関するQ&A
Q:もし違う純血種同士を交配し、どちらもとても健康な犬ならば、遺伝子プールが広くなるので、その子犬は同じ種類の犬同士の交配でうまれた子犬より健康なのではないでしょうか?
Q:純血種はどの犬種も遺伝性疾患を持っているようですが、MIX犬については聞いたことがありません。なぜですか?
Q:アウトクロッシングとは何ですか?
Q:ラインブリーディングについて教えてください。
Q:インブリーディングについて教えてください
Q:血統書というのはどのように検討するべきですか?
Q:「Like-to-like matings(似た者同士の交配)」と「compensatory matings(補い合う交配)」とは何ですか?
Q:これらの事はとても曖昧でかつ複雑ですね!
Q:もし違う純血種同士を交配し、どちらもとても健康な犬ならば、遺伝子プールが広くなるので、その子犬は同じ種類の犬同士の交配でうまれた子犬より健康なのではないでしょうか?
A:健康という観点だけで見れば、(しかし犬のブリーディングには犬種の維持という目的があります。)同犬種同士であろうと異犬種同士であろうと、健康な犬同士を交配すれば健康な子犬が得られる可能性は高いと言えます。しかし劣性遺伝子についてはそうは言えません。二つの違う犬種を交配したとしても、どちらも同じ遺伝性疾患を発現させる劣性遺伝子を持っている可能性はあります。(劣性遺伝の場合は、その遺伝子をヘテロで持っているなら、その犬自身は健康です。)その場合、子犬にその遺伝性疾患が生じる確率は同じ犬種同士の交配でも異犬種同士でも同じです。では、お互いに共通する劣性の遺伝性疾患を持たない(Aという犬種にはBという犬種が持つ遺伝性疾患がない)犬種同士を交配した場合はどうでしょう?この場合どちらの犬も健康であるなら、それぞれの遺伝性疾患はその子犬(F1:一代雑種と呼ばれます)には出ません。しかしこれらの子犬はブリーディングされるべきではありません。なぜなら両方の遺伝性疾患の劣性遺伝子を持っているかもしれず、その場合、次の世代には両方の遺伝性疾患が発現してしまう可能性があり、純血種同士の交配よりも悪い結果となります。もう一つ大事なことは、純血種が持つ遺伝性疾患の遺伝子は、別の犬種に交配しようと雑種に交配しようと、消えてなくなることはないということです。たとえ子犬に表われなくても、遺伝子は受継がれていくということです。そして相手が別の犬種であっても、その犬が同じ病気の遺伝子を持っていたなら、子犬にはその病気が表われるでしょう。
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Q:純血種はどの犬種も遺伝性疾患を持っているようですが、MIX犬については聞いたことがありません。なぜですか?
A:真剣なブリーダーは、自分の犬種が持つ遺伝性疾患について知り、慎重な選択繁殖によってそれを撲滅しようと努力します。そのような遺伝性疾患に対する努力が、皮肉にも「この犬種にはこんな遺伝性疾患があるんですよ!」と広く人々に知らしめることになってしまうのは当然かもしれません。しかし良く考えてみるなら、MIX犬も当然同じような悪い遺伝子を持っているはずです。彼らの親、あるいは先祖は純血種のはずですから。
しかし劣性の遺伝性疾患(すべての遺伝性疾患が劣性ではありません)は、その遺伝子を一つだけ持っていても表われませんし、MIX犬の場合は遺伝性疾患を特定したり減らしたりする努力が行われる機会が少ないと言えます。(MIX犬を真剣にブリーディングする人はいないでしょうから)また、多くのMIX犬は遺伝性疾患について検査を受けることがありません。例えば、年を取って後ろ肢がびっこを引きはじめても、多くの飼い主は年のせいだと思います。それが股関節形成不全によるものであったとしても。年を取って眼が悪くなってきても、専門的な検査を受けさせる飼い主は少ないでしょう。それが遺伝性の網膜萎縮であったとしても。これはMIX犬の飼い主が悪いという意味ではありません。ただ、MIX犬の飼い主は純血種のブリーダーのように特定の遺伝性疾患を真剣に見つけ出す必要がないというだけです。
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Q:アウトクロッシングとは何ですか?
A:アウトクロッシングとは一般に、3、4世代中に共通の先祖犬を持たない犬同士の交配のことです。厳密な意味で言えば、まったく違う犬種同士の交配ということになるかもしれません。なぜならほとんんどの純血種は血統を遡れば共通の祖先を持っていますから。アウトクロッシングで生まれた子犬達は、一胎がほとんどばらつきなく揃っているということはあまりありません。多くの場合、サイズ、コート、色、模様などにばらつきが出ます。アウトクロッシングによる子犬は多くの遺伝子をヘテロで持っていますから、次の世代に彼ら自身の特質がそのまま伝わらないことが多いようです。
アウトクロッシングは、通常ある系統に何か新しいものを導入する時に使われます。例えば、より良い頭部とか色とか肩とかです。そして通常は、アウトクロッシングで生まれた子犬を交配する場合、そのブリーダーの元の系統に戻すという方法が使われます。そうすることによって、その系統の全体的な特徴を崩さないで、新しい良い特質を加えることができるのです。ただし、それに付随して別の望ましくない特質も加えてしまうという罠もありますが。
もしその熱意があるなら、アウトクロッシングだけでブリーディングを続けていくことも可能です。(ただし、早い結果は期待できません)その場合、お互いを良く補うような、似たタイプを持つ2頭の犬を選ぶべきです。この方法で自分のラインを作っていくのはとても根気が要り、楽な道程ではありません。しかしアウトクロッシングは多くの遺伝的問題を素早く減らすことができます。その代り、ショーのためのクオリティ(体型)等をいくらか犠牲にすることになりますが。
アウトクロッシングにはいくつかのバリエーションがあります。「本当の」アウトクロッシングとは生まれる子犬の血統書上に同じ犬の名前は全く出てこないという組み合わせで交配することです。(つまり両親犬はどちらともアウトクロッシングで作られている)しかしこれはまれなことです。ラインクロッシングとはアウトクロッシングの一つの型と言えます。これは別の系統の2頭の犬(お互いに共通の祖先は持っていない)を交配することで、どちらの犬もラインブリーディングから生まれた犬のことが多いです。子犬の外見にはばらつきが出ます。父犬の系統の特徴を持つ子犬、母犬の系統の特徴を持つ子犬、あるいは両方を混ぜたような子犬というふうに分かれるでしょう。
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Q:ラインブリーディングについて教えてください。
A:ラインブリーディングとは、血縁関係のある犬同士の交配のことです。たとえば、祖父と孫、祖母と孫、従兄妹の子同士、半従兄妹同士、叔父と姪、叔母と甥、などです。一般的に、父犬と母犬の両方の側に、共通の先祖犬を重ねて置くことを目的とします。ですから、望ましい特質を持った犬が血統上に数回表われることになります。
これは純血種のブリーディングにおいて最も良く用いられる手法です。(また、新しい犬種を作り、固定するためにも用いられます)この方法を用いると、新しい遺伝子はゆっくりと導入され、望ましくない遺伝子もゆっくりと置き換えられていきます。その度合いはラインブリーディングの強さによります。全体的な体型を犠牲にしてしまうリスクはほとんどありません。通常、子犬達には体型的なばらつきはあまり出ません。この手法の唯一の問題は、悪い遺伝子を排除(あるいは良い遺伝子を固定)するのにしばしば数世代かかり、多くの子犬が両親が持っている同じ遺伝的な問題(あるいは長所)を持つということです。さらにショーで良い成績を取ることに熱心なブリーダーの中には、そのように遺伝的な問題を持つ犬でも体型が良いと、不妊手術の条件を付けずにショー用で売ってしまう人もいます。ですからこの手法は、その犬種にとって祝福にも災いにもなり得ます。ブリーダーは慎重に、悪い遺伝子を重ねないようにブリーディングしていかなくてはいけません。
インブリーディングとラインブリーディングはその程度が違うだけです。ラインブリーディングはインブリーディングより安全性が高い無難な手法です。インブリーディングは初心者が行うものではありません。インブリーディングを成功させるためには、その犬種と遺伝学に関する多くの知識が求められます。良い結果のためには慎重な計画が必要で、そしてブリーダーにはどのような結果になっても後悔しない覚悟が必要です。
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Q:インブリーディングについて教えてください。
A:インブリーディングとは、父犬と母犬がとても近い関係にあることで、例えば、父親と娘、母親と息子、兄と妹、従兄妹同士(これはラインブリーディングという人もいます)等です。インブリーディングは、その系統にどんな悪い遺伝子があり、またどんな優性の特質があるかを見つけるのに一番早い方法です。
多くの人はこのような近親相姦を嫌がります。しかしどのような遺伝子があるかを調べるにはこれは最も有用な手段です。例えば、もし眼の病気の遺伝子がその系統にあり、隠れている、あるいは劣性であるため、その犬には表れていない場合でもその系統の犬をインブリードすると子犬に広くその病気が表れるでしょう。もし悪い遺伝子がその系統にないなら、子犬達はばらつきが少なく、そしてその犬達もその特徴を次の世代にしっかり伝えることができるでしょう。それらの子犬達はその両親や祖父母と同じ遺伝子をかなりたくさん持っていて、遺伝的にとても近い動物ということになります。
インブリーディングは新しい遺伝子を導入しませんし、その系統が持っている悪い遺伝子を排除することもしません。ルービックキューブのように組み合わせかたを変えているだけです。この方法は、優れた犬を基に行うと、とてもハイレベルなショークオリティの子犬達を生み出します。そしてその系統に隠れている劣性の特質を、良いものも悪いものも表に出してくれます。しかし良くない面もあります。悪い劣性特質を表してしまう可能性と共に、インブリーディングは結局は、不毛への道(繁殖能力を持たない犬が生まれるようになる)をたどります。ちょうどコピー機のようなものです。たくさんのコピーを続けていると、インクを新しくしないといけないのと同様に、新しい遺伝子を入れないといけなくなるのです。良識のあるブリーダーは、インブリーディングばかりを集中的に行うようなことはしません。インブリードは決して行わないというブリーダーも多いです。インブリードを行うのは、非常に経験あるブリーダーか、あるいは無知なブリーダーか、パピーミルです。
インブリーディングは共通の祖先を持つ父犬と母犬の同じ遺伝子が会う確率を高くします。ですからインブリーディングで作られた犬はヘテロよりもホモの遺伝子を多く持つ傾向になります。そしてどの犬種でも、ある程度以上にホモの度合いが多い犬を交配すると、良い犬は生まれないと言われています。
インブリーディングは、ホモを増やしてヘテロを減らしますから、悪い遺伝子も良い遺伝子も二重にし、その系統に潜在している特質を暴露してしまいます。インブリーディングは異常を生じさせるものではありませんが、異常を表面に出してしまうのです。異常があっても表面に出さない時もあります。しかし、一度表面に表れれば、ブリーダーは次の世代には出さないようにブリーディングプログラムを立てることができるというのも事実です。
悪い劣性の形質が増えるというのは望ましくないことですが、しかし、そのような形質は早めに特定できれば、大きな障害ではありません。インブリーディングの弊害は複数の遺伝子が関係している(ポリジェニック)悪い特質(例えば股関節形成不全)において大きくなります。
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Q:血統書というのはどのように検討するべきですか?
A:悪い遺伝子を持つキャリアー(見た目は正常)を特定するのは難しいことです。その遺伝的な問題を実際に持っている犬が見つかったら、その犬の血統は注意深く調べられます。例えば、PRA(進行性網膜萎縮)は多くの犬種でよく見られる遺伝性疾患です。ある同じ先祖犬を持つ何頭かの犬がPRAを発症したとします。するとその共通の先祖犬はPRAのキャリアーの疑いがあるということで、その犬のラインブリーディングを避けます。これは単純な例です。見かけが正常でキャリアーでもない犬が、見かけが正常でキャリアーである犬から生まれ、その親はその病気を持ってる、ということも有り得ます。(その場合、正常な犬の血統書上にその病気を持つ犬がいます。)もし血液検査によってキャリアーを調べることができるなら、もっと確実なブリーディングができます。(現在、アイリッシュセッターのPRAではこれが可能です。)
ブリーダーがブリーディングの時考慮しなくてはいけない問題が一つだけということはまずありません。それが問題をやっかいにします。例えば、PRAのキャリアーの疑いのある犬が、股関節に関してはとても良い子犬を生み出す犬かもしれません。それゆえ、ブリーダーによっては股関節を向上させるために、あえてPRAのリスクを承知でその犬の系統をブリーディングプログラムに入れるかもしれません。一つの問題を排除することによってまた別の問題が生じるということ
もあるのです。
血統書を調べることにより、その犬がある先祖犬の血液を何パーセント受継いでいるかということも計算することができます。(犬の血縁関係というのは、単に従兄妹だとか叔父とか叔母というようなものではなく、複雑に絡み合っていることが多いので、共通の先祖犬の血液の濃さを表すのにパーセンテージが使われます。例えば、異母兄妹交配で、2世代前に同じ犬が2頭入っていれば、25%+25%=50%となります。)それによって、ブリーダーの目的に沿ったブリーディングプログラムを組み立てる助けとなります。
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Q:「Like-to-like matings(似た者同士の交配)」と「compensatory matings(補い合う交配)」とは何ですか?
A:似た者同士の交配とは、最良の犬と最良の犬あるいは最悪の犬と最悪の犬の組み合わせのことです。後者は行われることはありません。多くのブリーダーにとって、お互いに良く似ていて、同じようなタイプの犬同士を交配することを意味します。2頭は同じような血統の場合もあればそうでない場合もあります。
子犬というのは両親から遺伝子を受継ぐのでその両親に似ます。ですから、その両親がお互いに良く似ているなら、その子犬達は一層親に似ます。この方法は均一性を増すことにはなりますが、ある特質を向上させていくということはほとんどありません。
補い合う交配とは似た所が少ない犬同士を交配し、一方の欠点を相手によって補正させる方法です。この方法は基本的には単純なものですが、ブリーダーはブリーディングする犬の欠点と長所をしっかり認識しなくてはならず、そのためには犬種に関する知識が求められます。どちらの犬の血統も注意深く検討してから、ブリーディングプログラムを決定する必要があります。ある特質を改善したいなら、その特質がスタンダードに合致した犬を交配するべきで、逆の方向に極端な犬を交配するのではありません。つまり、細めの頭部を改善したいなら、正しい頭部の犬を選ぶべきで、大きすぎる頭部の犬を選ぶのは間違いです。この方法は、通常一胎の中で1、2頭だけに期待した結果が得られます。
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Q:これらの事はとても曖昧でかつ複雑ですね!
A:ええ、そうです。簡単な答えはありません。どの犬種にも考慮すべき難しい課題がたくさんあるのです。この捕らえどころのない遺伝の仕組みゆえに、正しい方法でブリーディングを行うのはとても難しいことなのです。経験があり誠実で、犬種やあなたの犬の系統について深い知識を持ったな「助言者」を得ることは助けとなるでしょう。そのような人からのアドバイスはとても貴重です。
遺伝の仕組みについてすべてわかったなら、犬のブリーディングにおける問題はすべて解決するでしょう。股関節形成不全もPRAも心臓病も数世代で完全に無くしてしまうことができるでしょう。しかし残念なことにわからない部分が多いゆえに、犬のブリーディングは一つの「芸術」の要素を持っていて、それを本当に上手くできる人はほとんどいないのです。犬のブリーディングは、根気と知識と努力と時間と、そして犬種への愛情が求められる、とても難しく、崇高な趣味です。