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児童福祉法:参院審議なく、改正法案廃案 「ねじれ」余波、児童福祉直撃

 子育て支援策の拡充や、虐待などで親と暮らせない子への対策を強化する児童福祉法改正案が先の通常国会で廃案になった。法案の中身には与野党とも反対の声はなく、衆院では全会一致で可決され、通常なら成立間違いなしのはずだった。だが、「ねじれ国会」の中で、参院で審議されず、継続審議にもならなかった。政治の混迷が国民の暮らしを直撃した。【山崎友記子、柴田真理子】

 ◇里親制度充実など、年明け施行に支障

 改正案は政府が提出し、5月29日に衆院を通過した。だが、参院では趣旨説明も行われなかった。会期末に、福田康夫首相への問責決議が可決され、民主党が「不信任した政府が提出した法案の審議は継続できない」として廃案になった。

 廃案で大きな影響を受けるのが、親元で暮らせない子どもを育てる「社会的養護」の関連施策だ。

 改正案には、施設中心から家庭的な養育への転換策が盛り込まれ、里親制度も改正する準備に入っていた。具体的には、里親への研修を義務付け、里親支援機関を設置し、養育手当も引き上げるなどで、来年1月から施行の予定だった。

 だが、廃案で時間的に難しくなり、厚生労働省家庭福祉課は「施行は遅らさざるを得ない」と話す。

 里子支援を行うNPO法人アン基金プロジェクトの坂本和子副理事長は「被虐待児も増え、支援機関は緊急課題なのに」と残念がる。

 改正案はまた、養護施設などに入居する子どもに対する体罰や性的暴行などの「施設内虐待」を明確に定義し、発見者の通告義務や通告者に対する不利益取り扱いの禁止も盛り込まれていた。

 「施設内虐待を許さない会」の浦島佐登志代表は「『施設の職員が虐待するなんて信じられない』という風潮があり、明記されること自体が大きい」とし、「政治家には、発言力のない子どもを守る意識を持ってもらいたい」と訴える。

 ◇「保育ママ」制度拡充も

 改正案はまた、少子化をにらんだ子育て支援事業も柱だ。

 施策の一つが、働く親向けの「保育ママ」制度。保育士や看護師の資格を持つ人などが自宅などで主に3歳未満の子どもを預かる仕組みだ。働く親向けの保育サービスは認可保育所が中心だが、都市部を中心に保育施設が不足しており、全国の待機児童は07年4月時点で約1万8000人に上る。

 政府は今年2月、「新待機児童ゼロ作戦」を打ち出し、保育サービスの量的拡大の具体策として、保育ママの拡充に今年から3年間を重点期間として取り組んでいるが、その出はなをくじかれることになった。

 保育ママ制度は、自治体が長く独自で進めてきた経緯があり、資格や預かる場所の基準などは自治体によって異なる。法制化により、統一の基準を設け、質を確保する目的も改正案にはあった。

 東京都足立区で10年以上、保育ママを続けている川島千明さん(48)は「保育ママは、低年齢児が小規模な落ち着いた環境で過ごせるなど保育園とは違った良さがある」と説明。その上で「法的位置付けがないため、身分の保障がなく、統一の保育指針もない。安定した質の高い保育が提供できるよう、一日も早い法制化を望んでいる」と訴える。

 改正案にはまた、地域の子育て支援の拠点である「子育てひろば」の拡充も盛り込まれていた。現在は多くが民間団体の運営だが、法の裏付けができることで、事業が進めやすくなる、と関係者の期待が大きかった。

 子育てひろば全国連絡協議会の奥山千鶴子理事長は「少子化対策は待ったなしの課題、とされている。その土台となる法が、廃案になるとは信じがたい」と批判する。

 厚労省の社会保障審議会で少子化対策特別部会長を務める、大日向雅美・恵泉女学園大大学院教授も「児童福祉法の改正は、子育てサービスを質量ともに充実させるのに欠かせない。一日も早い成立を」と国会に早期の対応を促す。

   *

 改正案は、8月召集予定の臨時国会に再提出される見込み。衆院では一度可決されているが、継続審議ではないため、衆院で一から審議をやり直す必要がある。参院に送付されても、与野党の駆け引きのあおりを受け、成立が大きくずれ込む可能性に変わりはない。

毎日新聞 2008年7月1日 東京朝刊

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