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ザ・論点 無気力政府に、鈍感国民
2008/05/09の紙面より
吉岡 利固
この一カ月で、ガソリン暫定税率の期限切れと再議決で一リットル当たり二十五円の税額をめぐって、小売価格が乱高下した。ところが、注意深く見ると暫定税率が切れた三月末時点で二十五円未満しか下がらず、逆に暫定税率が復活した五月一日以降は二十五円より上がっている。石油元売り各社はこの騒動で前後二回にわたって原油価格高騰を理由に、ガソリン価格を引き上げたことになる。 マイカー自粛で対抗対する消費者は、四月末日に行列を作ってマイカーを満タンにし、中には携帯用の金属缶に備蓄しようとして火災を起こす騒ぎもあった。「多少は、ゴールデンウイークの交通渋滞が減るのか?」と注目していたが、都市部につながる高速道路の混雑状況は、例年とちっとも変わらなかった。私が不思議なのは、そこまでして安いガソリンを買い求めるのなら、なぜマイカー使用を自粛しないのだろう。無理して満タンにしても、車で遠出して渋滞に巻き込まれればすぐに燃料は空になる。結局高いものにつくのなら、電車やバスを使って移動するなり、自宅周辺で楽しむ遊び方を考えればよい。経済は「需要と供給」で成り立っている。ガソリン価格が高騰し、皆がマイカー使用を控えたら必然的にガソリン消費量は減る。政府は戻した暫定税率による増収が期待できないし、石油元売り各社は消費予測が狂って備蓄量があふれ、価格を引き下げざるを得ない。 「都市はともかく、地方は車がないと暮らしていけない」というが、果たして本当にそうだろうか? 鉄道もバスも通わない地域など日本にはほとんどないし、逆にその鉄道やバスの便を減らしてしまった張本人がマイカーだ。地方は隣近所の人間関係が濃密だから、マイカーの乗合利用がもっとあっていい。通勤などはそうして工夫すれば、ガソリン節約は可能なはずだ。 目先の便利さや欲望に、平気でお金を湯水のように使って何とも感じないのが現代日本の奇妙な現象なのだ。非正規雇用社員が増えて“ワーキング・プア”が流行語になっても、一方では嗜好品(しこうひん)のケーキに行列ができ、暫定税率が戻っても高速道路は大渋滞する。国民は「どこかおかしいな」と感じても、ちっとも抗議の気持ちを行動に移さないから、政財界は「何をやっても許される」と勘違いして、消費者をナメてしまう。 与野党、決め手欠く国政の状況は、当分大きな変化はない。衆院は自公与党が三分の二の議席を握って再議決権を行使し、参院は民主が第一党で野党が絶対多数を占め法案はすべて否決できる。このねじれはしばらく続く。内閣支持率がジリジリ下がって二割を切った福田政権に対し「解散か、総辞職か」の声が強まっているが、そんな気力も意欲も首相からは、まったく感じられない。「自らの身を処す」という行為は、相当のエネルギーを要するからだ。せいぜい内閣改造で小手先をごまかす程度だろう。 衆院議員の任期満了まで、まだ一年以上ある。年金問題ずさん処理はもちろん、日銀総裁の座が宙に浮き、ガソリン暫定税率で混乱し、補選で負けても、自公政権は全部野党のせいにしてまったく反省がない。「洞爺湖サミットが終われば、雰囲気も変わるだろう」くらいの甘い考えだ。そのサミットだって、福田首相の当事者能力欠如と既に国内経済悪化で死に体のブッシュ米大統領が主役では、環境問題も含めて何も大切なことは決まりはしない。 攻める民主党もパッとしない。秋の代表選に向け、けっして小沢代表で一枚岩にまとまっていない。前原前代表を中心としたグループの動き次第では、肝心の解散総選挙の前に、自壊してしまう危険性すらはらんでいる。 後期医療制度に怒り今問題になっている後期高齢者医療制度を、強行採決で決めたのは小泉首相だ。この制度の対象年齢になると、日常生活の中で定期的な病院通いは欠かせない。私の場合、実際窓口で支払う額は一挙に三倍近くに増えた。もともと自民党の絶対的支持基盤であった高齢者は本当に怒っている。「都市若年層」の支持を受けて竹中氏と二人三脚で“規制緩和で自由競争”を推し進めた小泉政治の本質が、この制度に表れている。保守地盤の山口2区での補選大敗も、「地方高齢者層」の自民党離れと無縁ではない。与党にすれば「熱しやすく冷めやすい」上に、生活防衛への自覚が低く鈍感な国民性にひたすら頼って、最大野党の民主党が自らコケてくれることに期待しての時間稼ぎしか打つ手はあるまい。 (新日本海新聞社 社主) ■インデックス
「ろうそくデモ」に見る韓国の先進性(07/01)
無気力政府に、鈍感国民(05/09) 教育再生は、幼少期から(04/02) 飽食末のケーキ行列は日本の景気(02/26) 当分立ち直れぬ米国経済(01/23) |
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