原油高や米景気悪化など日本経済を取り巻く環境が厳しさを増している。日銀が1日発表した企業短期経済観測調査(短観)では、業況に対する判断がおしなべて悪化した。景気と企業活動が体力を試されている。経営者や消費者の心理が大きく下振れないように努めることは、当面の経済運営の最大の課題である。
企業の経営環境が「良い」との回答から「悪い」を引いた景況感は、目安となる大企業・製造業で3月の前回調査に比べて6ポイント悪化した。非製造業も含め大企業ではそれでも「良い」との回答の方が多いが、経済のすそ野に広がる中堅、中小企業では「悪い」との回答が勝っている。中堅企業はマイナス4、中小企業ではマイナス16と、それぞれ「悪い」超だ。調査対象の企業全体でみても「悪い」超となっている。
原料高、円高、米景気悪化。厳しい材料には事欠かないが、日本企業は土俵際で懸命に頑張っている。今回調査での2008年度の想定為替相場は1ドル=102円台後半。前回3月時点は109円台前半だったから、経営計画をわずか3カ月で6円以上も円高方向に修正した勘定である。輸出も米国向けが落ち込んだ分を、アジア、中東、ロシア向けなどを伸ばしある程度補っている。
原料高との関連で、注目されるのは仕入れ価格と販売価格の判断指数の動向だ。大企業・製造業の場合、仕入れ価格が「上昇」したとの回答から「下落」を引いたプラス超過幅は59。前回3月に比べてプラス幅は9ポイント拡大した。一方で販売価格も上昇に転じている。「上昇」から「下落」を引いたプラス超過幅は10と、3カ月前に比べて7ポイント高まった。非製造業も同様だ。製品やサービスへの価格転嫁が徐々に進み始めたことがうかがえる。
食品など日用品は消費者の生活に欠かせないので、企業による値上げが通りやすいのだろう。製品安・原料高に苦しんでいた企業経営からすれば、厳しい環境のなかで一息つける点かもしれない。
半面で、従業員の所得が増えていない中で、物価の上昇は家計の実質的な購買力が低下することを意味する。5月の消費者物価指数が生鮮食品を除き前年同月比1.5%上昇したことは、家計心理に見逃せない重圧となる。
原油など商品価格の上昇で日本の所得が資源国に流出していることが問題の根っこにある。インフレのリスクが、デフレの続いてきた日本にも及びだしたことに政府・日銀は十分に目を凝らす必要がある。