社会保険庁を解体して10年1月に発足する「日本年金機構」の組織や業務内容、職員採用などに関する最終報告書がまとまった。政府の有識者会議「年金業務・組織再生会議」が提出した報告書は、新機構の基本計画として4日に閣議決定される。
報告書のポイントは(1)組織のスリム化=正規職員を現在より2割削減する(2)採用制限=懲戒処分歴がある社保庁職員は正規職員として採用せず、期間を定めて働く有期雇用とする(3)非公務員型=本庁、地方採用など従来の仕組みを廃止し、新機構の本部による一括採用。厚生労働省との人事交流では「腰掛け的な幹部登用」を行わず、同省への復帰を認めない(4)業務の民間委託の拡大--などだ。
組織の効率化、スリム化は進めるべきで、総論として反対はないだろう。ただ、人員削減を行うためにはまず、業務の精査が必要だ。まず、リストラありきという考えで行えば、仕事量に対して人員が不足する状況になりかねず、国民が迷惑する。
報告書には、最近明らかになった厚生年金のコンピューター記録と原簿との不一致をはじめ、ズサンな年金記録の問題への対応は盛り込まれていない。すべての原簿とコンピューター記録を照合する必要があるが、そのための人材はどうするのか。照合作業には専門知識が必要で、外部委託や有期雇用だけで十分な対応ができるのか。年金記録問題への対応は年金への信頼を取り戻せるかどうかの試金石となる。政府は明確な方針を示すべきだ。
懲戒処分歴のある職員については厚労省案にあった「不可欠な人材」のみ正規職員への採用を認める例外規定を削除し、有期雇用とした。すべて民間出身者による委員会が職員の採用審査を行うことになるが、合理的で妥当性のある採用基準を作成して示し、審査を行うべきだ。
ここで改めて言っておかなければならないのは、社保庁の信頼を失墜させた責任の多くは歴代の長官をはじめ厚労省の幹部にあるということだ。年金不信を招いたトップの処分をあいまいにしたままで、一般職員だけに責任を取らせるやり方をしている以上、国民の信頼は得られない。
新組織は正規職員、有期雇用、派遣など多様な雇用形態の働き手が同居する寄り合い所帯となる。徐々に一体感がもてる組織にしていくのも年金機構のトップが行う大きな仕事だ。
業務の民間委託については、年金という最重要の個人情報を扱うことになるだけに、情報流出などがないよう、適正な記録管理体制を作ることを注文したい。
年金機構の基本計画はできたが、これで終わりではない。むしろ、これからが信頼回復に向けての正念場だ。解決すべき課題は山積している。
毎日新聞 2008年7月2日 東京朝刊