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社説

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景気の行方―深い谷にしないために

 戦後最長を更新してきた景気の命脈が、いよいよ尽きようとしている。

 日本銀行が発表した企業短期経済観測調査(短観)の結果が悪化した。景気の動向を示す業況判断指数(DI)は大企業の製造業でプラス5。3カ月前の前回調査にくらべ6ポイント落ちた。水準は03年9月ごろと同じで、中小企業はさらに厳しい。

 内閣府はすでに、景気動向指数の動きから「局面変化」に差しかかっていると表明し、今回の景気上昇が終息する可能性を指摘している。

 思えば、好景気にはよく名前がつけられる。高度成長期には、最長記録が伸びるたびに古代神話から「神武」「岩戸」「いざなぎ」と名がついた。80年代末の株価と地価の高騰時代は「バブル景気」と呼ばれる。

 「いざなぎ」を抜き、戦後最長になる今回の景気は何と呼ぶべきか。

 まず、昔の高度成長とは対照的に、メリハリのない「ダラダラ景気」という印象が残る。実質成長率は年2.5%止まりで、好況の実感はない。

 期間中ずっと物価に下押し圧力がかかる「デフレ景気」でもあった。名目成長率はマイナスや横ばいが続き、庶民の懐は温まらない。やっと物価が上向いてきたものの、好況になって上がったのではなく、輸入資源の高騰に押し上げられただけなので、それが景気自体の首を絞めてしまった。

 そんなフラフラした足取りだったが、牽引(けんいん)したのは輸出と設備投資だった。欧米や中国、インド、中東など新興経済圏への輸出が快調で、これに呼応した設備増強だけはいつも活気があった。海外の好況はたぶんに米国の住宅値上がりや資源・エネルギー価格の高騰にあおられたもので、「世界バブル景気」という色彩が濃い。

 世界の活況に引っ張られたのは主に大企業だった。中小企業や地方企業はなかなかその恩恵が受けられない「格差景気」でもあった。

 実感もなく、格差に取り残された人たちも多い。好景気と呼ぶにはいささか気が引ける景況で終わりそうだ。

 強いていえば、この景気の中で力をつけたのはグローバル化した大企業だった。内部留保を増やし、実質無借金経営という企業も増えている。

 山高ければ谷深し。その逆の伝で、山が低かったぶん、先の谷も浅くて済むのだろうか。それは大企業の長期的な先行投資が続くかどうかによる。

 新エネルギーへの転換とか人材の育成とか、腰を据えた取り組みが必要な課題はたくさんある。そうした努力がひいては日本経済の落ち込みを抑え、構造転換も促す。

 景気の構図は変わったが、逆風を順風に換えられるかどうかは、まずは企業の頭の切り替え次第でもある。ここは大企業に底力を見せてもらいたい。

教育基本計画―学力向上へ大胆な投資を

 様々な政策が総花的に盛られているが、肝心のことが書かれていない。

 教育基本法の改正を受けて、初めての政府の教育振興基本計画が決まった。しかし、焦点となっていた教員数や教育予算などの数値目標は軒並み削除された。

 10年先のあるべき姿を見据えて今後5年の施策に取り組む。それが基本計画のねらいだ。

 文部科学相の諮問機関である中央教育審議会の答申に、数値目標はなかった。これに対し、教育の底上げには数値目標が必要だ、との批判が教育現場だけでなく、与党からも上がった。

 文科省は急きょ、数値目標を基本計画に書き足した。教育予算の対国内総生産(GDP)比を、現在の3.5%から経済協力開発機構(OECD)加盟国平均の5%に引き上げる。教職員を2万5千人増やす――。

 だが、何せ付け焼き刃である。なぜ、5%なのか、2万5千人なのか。この投資でどんな成果が得られるのか。説得力に乏しかった。ただでさえ、歳出削減を求められる時代に、ただ金をよこせ、人を増やせだけではさすがに通らなかった。

 しかし、今回の文科省の要求の仕方が稚拙だったからといって、大胆な教育投資が必要でないわけではない。

 そもそも今回の基本計画から根本的に抜け落ちているのは、日本の教育の問題点をどう総括し、そのための処方箋(せん)をどのように描いていくかである。解決方法をきちんと打ち出していけば、教育予算をどのくらい増やさなければならないかもはっきりする。

 例えば、日本の教育が抱える大きな問題は学力低下だ。特に国際的な調査で深刻さが浮き彫りになっているのは、考える力の不足と、できる子とできない子の二極化である。

 この解決に必要なのは、子ども一人ひとりの状況に合わせて、きめ細かな指導をすることだろう。それには子どもたちと日々向き合う教師の量を増やし、質を高めていくしかない。

 今はかつてない教師受難の時代である。一部のダメ教師の存在をきっかけに、教員免許更新制が導入された。いじめや不登校に加え、学校に理不尽な要求をするモンスターペアレントも増えた。そうしたことに嫌気が差して、教師の志望者が減っている。

 そんな中で、人材を集め、質の高い教師に育てるには、教師の待遇を良くし、養成方法を工夫する必要がある。

 公立学校への不信が指摘されて久しい。東京都杉並区の公立中の夜間塾などの対症療法ばかりが注目されるのも、不信の裏返しである。

 財政が厳しいのはいつの世も変わらない。政府は教育の重要性を言葉で語るばかりでなく、教育投資を着実に増やしていってもらいたい。

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