年金記録問題で、社会保険庁のずさんなデータ管理の実態がまた明らかになった。コンピューター上の厚生年金記録と、元になった紙台帳を照合するサンプル調査の結果、1・4%に入力ミスなどがあった。
厚生年金だけで紙台帳は約四億件あり、誤った可能性があるデータは約五百六十万件に上る。対象者は本来の年金額が支払われていなかったり、将来支払われない恐れがある。
コンピューター入力時の変換ミスや、結婚による改姓などで基礎年金番号に統合されず「宙に浮いた年金記録」といわれる約五千万件とは別の問題である。社保庁のいいかげんな仕事ぶりにあきれるとともに、あらためて強い憤りを覚える。信頼回復はさらに遠のいた。
年金記録の紙台帳は、社保庁がコンピューターシステムを導入した一九八〇年代半ばまで記録管理に使われていた。厚生年金の約四億件に加え、国民年金でも約一億七千万件ある。
サンプル調査は厚生年金の約二万件を抽出して行われ、二百七十七件でミスが発見された。すべての情報が未入力だったり、受給額の算定基準となる標準報酬月額(給料水準)などが食い違っていた。
紙台帳の記録をコンピューターに入力する際の漏れやミスが原因とみられる。このほか破損などで判読できないケースが十一件もあった。取り返しがつかない事態である。
現在、年金の加入履歴などを本人が確認するため、国民に「ねんきん特別便」が送られている。自分の年金は自分で守るという意識を強め、しっかりチェックする必要があるが、標準報酬月額のデータは記載されず確認の対象外だ。
政府は対応策として、紙台帳を画像データ化して瞬時に検索できるシステムを開発するという。順調にいっても二〇一〇年度からの本格運用になる。
具体策を示したのは評価できるが、最大の課題は実効性が不透明な点だろう。政府の方針は「本人から申し出があれば照合して調べる」と「申請主義」を崩さない。民主党などが要求する全件照合は、経費や時間の面で難しいとして拒んでいる。
だが、標準報酬月額の入力ミスなど本人が疑問を抱くのは困難な場合も多く、申請主義には限界があろう。紙台帳の破損などもあり全面解決は容易ではないが、可能な限り手を尽くすのが筋ではないか。
さらに一部企業が経費節減のため、標準報酬月額を過少申告していたことも問題化している。徹底した調査を望みたい。
日本プロ野球組織(NPB)は、ヤクルトのダニエル・リオス投手がドーピング検査で陽性反応を示したため、一年間の出場停止処分とした。
違反発覚は、昨年八月に出場停止二十日間の処分を受けたリック・ガトームソン投手(ソフトバンク)、今年五月に一年間の出場停止となり、巨人を解雇されたルイス・ゴンザレス内野手に続いて三人目である。
リオス投手は会見で、昨年末に背中などの治療目的で受けた注射か、ドーピング検査直前に服用したサプリメントが問題ではないかと述べ、故意ではないことを強調した。しかし、検出されたのは、罪が重いとされる筋肉増強剤だった。ヤクルトはリオス投手を解雇したが、当然の措置といえよう。
米国では昨年十二月、大リーグの薬物使用の実態を調べた「ミッチェル・リポート」が発表され、大物選手の名前が公表されたほか、日本でプレーする外国人の実名も複数挙がった。外国人選手の獲得には自己申告だけでなく、事前の検査を義務づけるなど、より厳しくチェックしなければなるまい。
薬物使用はスポーツのフェアプレー精神に反し、副作用で健康を害する恐れもある。国際的な反ドーピングの流れを受け、NPBが本格的に検査を始めたのは昨年からだ。検査対象となった試合後、両チームからくじ引きで選ばれた二人ずつが尿検査を受ける。市販の風邪薬には禁止薬物を含んだものもある。これまでのところ違反者は外国人ばかりだが、日本人選手も決して人ごとではない。
違反防止に向け、選手の自己管理はもとより、NPBや各球団には、禁止薬物についての教育や管理体制の一段の強化を望みたい。球界をあげて踏み込んだ再発防止対策が必要だ。
(2008年7月1日掲載)