◎路線価下げ止まり 楽観できる状況でなさそう
二〇〇八年の平均路線価で石川県が十六年ぶりに下げ止まり、富山県でも下落率が大幅
に縮小したのは、ひとえに「新幹線効果」が拡大した結果といえる。石川ではJR金沢駅周辺、富山でも富山駅周辺や富山市中心部が全体の地価を牽引する図式がますます鮮明になってきた。
だが、景気の減速感で今後の地価動向には不透明感が漂い、すでに土地取引は鈍化して
いるとの指摘もある。上昇地点の増加は明るい材料には違いないが、まだまだ楽観できる状況にはないだろう。
今の流れを持続、拡大させ、地域全体へと波及できるか、それとも新幹線開業を前に勢
いが弱まり、局所的な上昇にとどまるのか。景気のさまざまな指標をみれば、両県の地価動向は一つの分岐点に差し掛かっていると言えなくもない。そうした厳しい現状認識も忘れず、官民一体となって「二〇一四年」対策をテコ入れし、加速させる必要がある。
路線価などの土地価格は景気動向の指標であるとともに、北陸では新幹線開業への期待
感を示す物差しの一つとなっている。金沢市ではJR金沢駅から武蔵、県庁周辺へと上昇地点が拡大し、駅を中心とする面的な広がりが見えてきたのもその表われである。気になるのは、地価上昇の波が香林坊、片町には届かず、横ばいにとどまっている点だ。中心市街地で上昇地点が増えてこそ、県都の地価は反転したといえるだろう。
富山県で目を引くのは富山市中心部の際立つ上昇ぶりである。昨年九月に再開発ビルが
開業した総曲輪地区周辺の上昇地点は32・3%、29・4%、18・6%と北陸三県のトップ3を独占した。土地の収益性を高め、人の流れを呼び込む再開発事業が地価を動かすことをあらためて示している。
石川、富山県ともに地価の地域格差は依然として開いたままだが、県都の中で上昇地点
が拡大しなければ、地域全体にも勢いは波及しない。北陸新幹線開業が近づけば、地域発展への期待感も当然強まるはずである。せっかくの追い風が景気減速で相殺されないよう、地域の魅力づくりの足取りを確かなものにしていきたい。
◎北陸短観の悪化 「インフレ不況」の足音
戦後最長といわれた景気回復は、もはや痕跡すらとどめていない。日銀金沢支店の六月
の「北陸短観」を見た印象である。北陸三県の景況判断は、全国と比べてもかなり悪く、これまで景気をけん引してきた製造業の落ち込みが目立つ。北陸の景気は「踊り場」を突き抜け、下降局面に入ったと思わざるを得ない。
深刻なのは、前回の三月調査から今回の六月調査にかけて、原油スポット価格が27%
も上昇したことである。この間、円高から円安に振れたにもかかわらず、輸出は鈍化した。エネルギー・原材料価格の上昇が急なために、企業心理が一挙に冷え込んだのだろう。景気が低迷するなかで、物価がジワジワと上昇していく「インフレ不況」の足音が聞こえてくる。
六月の北陸短観は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が全産業でマイナス一八
と、三月調査に比べて八ポイントも落ち込んだ。二期連続の悪化であり、全国ベースでの六月の平均値がマイナス七で、三ポイントの悪化にとどまっているのに比べると、際立って悪い数字である。これまで好調を維持していた製造業は三月調査の時点で三年ぶりにマイナスに転じ、六月は三月のマイナス二から同一三へと一一ポイント悪化した。先行き予測は、マイナス二〇とさらに拡大する見通しである。
原因は原材料などの仕入れ価格の上昇が企業収益を圧迫しているためである。北陸短観
を見ると、製造業の仕入れ価格は「上昇」から「下落」を引いた価格判断指数が三月調査のプラス五九から同六八にまで拡大した。エネルギーや原材料の値上げ圧力のすさまじさが見て取れる。この結果、〇八年度の設備投資計画は全産業で6・2%減、新卒採用計画も同1・0%減と軒並み悪化した。企業経営者の間に、悲観論が急速に広がっているのも無理はない。
一日の東京株式市場は、三年九カ月ぶりに九営業日連続で下落し、ガソリン価格も未曾
有の一リットル百八十円時代に突入した。悪いニュースばかりが続くのは、日本経済が曲がり角に立っている証しかもしれない。