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コラム

ザ・論点

「ろうそくデモ」に見る韓国の先進性
2008/07/01の紙面より
吉岡 利固

 先月、わが社と友好・業務提携を結んでいる韓国・江原道の日刊紙「江原日報」を友好訪問し、交流促進の誓いを交わしてきた。

 韓国には、かつてグループ企業「グッドヒル」の現地工場があった関係で以前はたびたび訪れていたが、拠点移転があり約二十年ぶりに同国に足を踏み入れた。到着したその夜、ソウル市内中心部のホテルに着くと、外が妙に騒々しい。聞けばソウル市をはじめとして韓国全土で米国産牛肉の輸入再開に端を発した大規模な「全国百万人反政府集会」が催されているという。

 ホテルの部屋から眼下を見るとソウル市中心部の大通りは、文字通りろうそくの灯火で埋め尽くされている。私も新聞記者としての興味に駆られて、表通りに出てデモの波に入って突撃取材した。

 するとアジ演説の声は大音響で響いてくるが、ろうそくを持って行進する人々は実に整然としている。黙って歩き、時折拍手するだけ。よく見ると老若男女が入り交じっているだけでなく子供までいる。行進の両サイドを警察官が並んで規制してはいるが、そのわきから出入りは自由で警察側も参加者に対し無用な威嚇(いかく)は一切しない。

何もしない日本国民

 日本でも問題になった米国産牛肉のBSE問題は、米国の強引な食糧輸出政策が日韓両国に押しつけられ、無理やりに輸入解禁に持ち込まれた。韓国では、それを受け入れた李明博(イミョンバク)政権に対し、五月下旬からじわじわと抗議の輪が広がり、スタートしたばかりの政権の屋台骨を揺るがす事態に発展した。

 多くの日本人にとって、韓国の人々のイメージは「荒々しく気が短い」であり、景観も「ハゲ山が多い」と思い込んでいる。しかし、実際に訪れると市民参加型の静かなデモで政府に抗議し追い詰めるやり方は大人の対応で、日本以上に民度の成熟が感じられた。その後、荒れたデモもあったようだが、総じて景観もソウルから江原道に行く途中の緑豊かな山々を見ると、われわれはとんでもない思い違いをしていたことがよく分かった。

 かつて学生運動が吹き荒れ一九六〇年には安保反対デモで時の岸政権を追い込んだ日本は、今ではすっかりデモを見かけない国になってしまい、中でも一般市民が参加するデモはすっかり影を潜めてしまった。社保庁が年金問題でどれほどでたらめをしようが、原油が高騰しようが、また韓国と同様に米国によるBSE牛肉買い付けを強要されようが、国民は本気になって怒らずいつも知らん顔。何が起こっても、国民は「どうでもいい」とばかりに、動こうとしない。国会周辺に怒った民衆が詰めかけた話などとんと聞かない。そうしているうちに、日本は政治も経済もどんどん二流国に成り下がっている。

政官財の国民無視

 国政自体も、韓国の方が優れていると感じた。国民の生活必需品は基本的に値段が高くない。ガソリン価格は高くても公共交通料金が安いので国民は不便を感じない。食料品も安価で、嗜好品(しこうひん)や高級品と大きな差がある。日本のように働いても働いても生活が楽にならない「ワーキング・プア」などというばかげたことにはなっていない。国民生活に対するゆとりが整然としたデモに現れている。

 一方の日本は、国政だけでなくリーディングカンパニーの大企業も国民生活を考えないもうけ主義に走って、もうけ優先で値上げに走り、生産拠点をどんどん海外に移している。社会をリードする立場を忘れて、目先の収益に走っている。今や世直しは国民自身が自ら考えないと、誰も何も手を打たないのに、その国民が何事にも無関心過ぎて何も変えようと動かない。

 日本には未曾有の物価高がもう目前に押し寄せている。原油はまだまだ上がり続けるので、すべての物の値段に影響が出てくる。国民の所得は増えず、年金や医療など社会保障の先の見通しも暗いので、消費に回せる金は一向に増えない。国民は「これからは何一ついいことはない時代がくる」と覚悟した方がいい。しかも、時期がくれば景気が回復する見込みももうないからやっかいだ。

 こんな日本にしてしまったのは、小泉・竹中コンビだ。市場原理、自由競争、自己責任の美名の下に、日本のよき伝統を米国に丸投げして売り渡してしまった。今の福田首相は、その後始末に終われるだけで何もできない。なのに、原因を作った張本人の小泉・竹中コンビがいまだに政財界のフィクサー気取りで、しゃしゃり出てくる異常さを国民は憤慨しないといけない。

期待できぬ若者

 今の若者は戦後教育の下でチヤホヤして育てられているので、精神的にも肉体的にもたくましさがない。すぐにポキンと折れてしまい、学校や社会に適合できなくなる。しかも、その親の方も子供を厳しく育てることをせず自分たちの感情を学校と先生に向ける「モンスター・ペアレント」となって暴れるので、ますます子供たちはおかしくなってしまう。かつて日本人が敗戦の焦土の中で立ち上がったような、勤勉さとたくましさは到底期待できそうにない。

 「もう少し様子を見よう」という発想では、何も起こらないし変わらない。こういう時代はスピード感が要求される。そのためには、以前にも述べたように原油が高騰するなら「もう車には乗らない」という一般市民の直接的な行動が必要だ。そうした強い意志を国民が一人一人で示すことで日本の政治や経済は少しずつ変わって行くはずだ。

 (新日本海新聞社 社主)

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