2004/10/13付紙面より
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無色な草なぎの持つ色
文化社会部 松田秀彦記者
それは、あまりにも似ていない物まねだった。先日、ソウル市内の書店で、自著「チョンマルブック2」の発売記念握手会を行ったSMAP草なぎ剛(30)のまねを、本人の前で“披露”してしまった。
取材陣と草なぎを含めたスタッフは夜、別々に食事を済ませたが、宿泊先近くのダイニングバーで合流する機会があった。打ち上げ的な雰囲気もあって、盛り上がった。ペ・ヨンジュン風のカツラを順番にかぶって大笑いしたり、芸達者な? 女性宣伝担当者が、体を張った物まねを披露して爆笑を誘う一幕もあった。気が付くと、自分が何かしなければいけない状況になっていた。
半ばヤケになって、草なぎの物まねにチャレンジすることにした。人気番組「SMAP×SMAP」の1コーナー「ビストロスマップ」の1シーンを再現することにした。数年前、ベネチア映画祭の打ち上げで寺尾聡(57)の目の前で「ルビーの指輪」を歌う“暴挙”に出た時の緊張感がよみがえった。
結果は、最低の出来だった。ところが、草なぎは大喜びだった。「本当にうれしいなあ」。ほんのり赤くなった顔をくしゃくしゃに崩して握手を求めてきた。「僕はいつも個性がないって人から言われるんです。だから、物まねをしてくれる人がいなくて、ちょっと寂しかった(笑い)。初めてですよ」。へこむ人間への気遣いのフォローはありがたかったが、言われてみると確かにまねするには難しい人だと思った。
SMAPといわれ、真っ先に思い浮かべるのは木村拓哉(31)だろう。人気は間違いなく芸能界でトップクラス。スターの中のスターだ。華があるという点は男性も認めるだろう。中居正広(32)は、バラエティー番組などを中心に、軽妙さと親しみやすさで人気を集めている。NHK大河ドラマ「新選組」で主役を張る香取慎吾(27)は、人懐こい笑顔と明るいキャラクターが幅広い層に支持されている。稲垣吾郎(30)はクールな印象が強く、知性派のイメージ。見事なまでに、それぞれが個性的だ。そう考えてみると、草なぎは「無色透明」というか、少なくとも強烈な個性の持ち主ではない。
ところが、出演作を見てみると、実はこれが最大の武器になっていることが分かる。99年に出演した舞台「蒲田行進曲」を演出したつかこうへい氏は、当時「天才だよ。1度も注文をつけたことがない」と瞬間的な吸収力を絶賛した。連続ドラマ「僕の生きる道」「僕と彼女と彼女の生きる道」は、いずれも草なぎの自然な演技が話題を集めた。最近の連続ドラマでは少なくなった回を追うごとに視聴率が上がるという現象を引き起こした。
共演した小雪(27)も「どんな芝居も受け入れてくれる包容力があった」と話した。スポンジのように、力まず役に溶け込み、その人間に成り切ってしまう。強い個性が目の前にちらつかない分、観客や視聴者も、物語に引き込まれやすい。「透明力」とでも呼びたくなるような才能は、名優になるための彼の最大の武器だとソウルの夜に思った。
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松田秀彦(まつだ・ひでひこ)
文化社会部。94年入社。編集局写真部を経て96年春から文化社会部。映画、音楽を中心に取材。東京都生まれ、千葉県育ち。35歳。
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