このコラムの筆者の後田亨さん
「絶対に、誤解される!」と思われるテレビCMがあります。60代の男優が出てきて「人生、まだまだ」とアピールする外資系保険会社のものです。医師の診断はいらず、80歳でも入れるとうたい、支払いは最も安いプランで約3000円。しかも、掛け捨てではないというのですから、私も「赤字覚悟か?」と驚いたくらいです。
しかし、何度かCMを見るうちに、「こんな広告ってありなのか?」と思わずにいられなくなってきました。この保険のカラクリがわかったのです。
そもそも、この商品は「生命保険」ではありませんし、もちろん「医療保険」でもありません。ポイントは「病気での入院」に対して保険金が支払われるとは、一言も言っていないことです。
「治療や入院の実費を最高100万円まで保障」とありますが、それは「ケガでの治療」に限られているのです。また、「お葬式の費用を保障」というのも、亡くなった場合に払われるのではなく、親族が負担する葬祭費用の「実費」を一定限度まで保障するというもの。
つまり、これは「損害保険」商品なのです。
このように「損害保険」であることがわかれば、この商品の「特長」とやらが、長所でもなんでもないことが明らかになります。たとえば「不慮の事故」で大けがをする確率は、年齢も健康状態もあまり関係がありません。むしろ、体が悪くて寝たきりの人のほうが、確率はずっと低くなるでしょう。したがって、加入の際に医師の診断がいらないのも当然のことだ、といった具合です。
私の場合、仕事柄、CMを見るにしても、「中高年の加入者を集めて、安い保険料で手厚い保障を提供する商品など無いはずだ。」という前提でチェックしていきますから、「おいしそうな話のウラ」に気がつくのは、時間の問題です。実際、CMの冒頭、一瞬ですが「長期保障傷害保険」という商品名を確認することが出来た時には、「やはりそういうことか」とうなずいたものです。
しかし、一般のお客様はどうでしょう。まず「中高年者が加入できる事実」と「医師の診断の有無」について触れられることで、「病気がちな人でも入れる『医療保険』」を期待してしまう方が大半ではないでしょうか。事実、私のお客様に「あの保険は『損保』です。病気で入院したら1日につき1万円、といった商品じゃないんですよ。」と説明すると、びっくりされます。CMは「資料請求件数」の多さを誇示するようにして終わりますが、資料を請求した人のうち、どれだけの人が理解をしていたのでしょうか。
安い保険には、安いだけの理由があるのです。次回は、同じように「誰でも入れる」をうたう医療保険を取り上げます。
後田亨(うしろだ・とおる)
1959年、長崎県生まれ。長崎大学経済学部卒業後、アパレル・メーカー勤務を経て、日本生命に転職。 10年間、歩合制の営業職員として働く。2005年に独立し、(株)メディカル保険サービス取締役に。 07年に刊行した「生命保険の『罠』」(講談社+α新書)で、業界を知る立場から生命保険業界が 抱える問題点をあげて、評判に。近著は「“おすすめ”生命保険には入るな!」(ダイヤモンド社)。
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