笠懸で硫化水素自殺、15世帯が1時間避難
2008.07.01
6月30日午後7時ごろ、みどり市笠懸町鹿の民家の庭にあった車の窓に「毒ガス発生」などと書いた張り紙があると、近くの女性が110番通報した。桐生署と桐生市消防本部が駆けつけたところ、この家に住む高校2年の女子生徒(16)が車内で倒れているのが見つかり、桐生市内の病院に運ばれたが、同8時半ごろ死亡が確認された。消防が硫化水素ガスを検知したことから、同署は現場周辺の住民約15世帯に避難を誘導。女子が硫化水素を使って自殺したとみて調べている。
同署によると、女子は密室状態のワゴン車の後部座席を後ろに倒し、うつぶせで倒れていた。車の後部にはトイレ用洗剤などで硫化水素を発生させたとみられる液体の入ったビニール袋と、大学ノート1枚分の紙に「死んだほうがいい」などの文言を含む長文で、将来を悲観する内容の手書きのメモがあったという。
道路側に面した助手席の窓の内側には、「毒ガス発生 扉を開くな/高濃度の硫化水素が充満しています/この場から離れて警察・消防に通報」などと書かれた張り紙があった。この張り紙に酷似した文面が、硫化水素自殺の方法を記したインターネットのサイトにあり女子はネットの情報を参考にしたとみられる。
現場周辺には強い硫黄臭が漂ったことから、同署は二次被害を防ぐため、午後7時20分ごろから同8時10分ごろまで、この家から半径100メートル以内の住民に風上への避難を呼びかけた。消防本部は現場に指揮本部を立ち上げ、同署員とともに防毒マスクを着けて対応した。同署によると、体調不良を訴える住民は出ていないという。
近所の男性(58)は「家の中にいたら卵の腐ったようなにおいがして、最初はわが家から異臭が出たのかと思った。そのうち見知らぬ女性が家に来て『車に張り紙がある』と教えてくれ、行ったら鼻とのどの奥に強い刺激があり、頭がクラクラした」。女性(67)は「(約100メートル離れた)通りのほうまで異臭がした」と話す。
高濃度の硫化水素、二次被害も深刻
市販のトイレ用洗剤に農薬や入浴剤を混ぜて硫化水素ガスを発生させ、自殺を図るケースが全国で多発している。県警本部によると、県内でも今年3月以降、笠懸の例を含め13件15人がこの方法で自殺しているという。
多くは車や風呂場など密閉した空間が使われるが、硫化水素ガスは毒性が非常に高く、救出しようとした家族に危害が及んだり、近隣住民を中毒症状にさせるなど、深刻な二次被害が起きる場合が多い。
このため警察庁は、第三者を重い二次被害に巻き込んだ場合、自殺者を被疑者死亡のまま重過失致傷などの容疑で書類送検するなど、硫化水素自殺を犯罪として立件する方針を固めている。
高濃度の硫化水素にさらされた場合、わずかな吸入で呼吸まひを起こし昏倒(こんとう)する「ノックダウン」という現象が起きるほか、皮膚粘膜への刺激も中長期的に気管支炎や肺水腫を起こす危険性もあるという。
万が一、近くで硫化水素ガスが発生した場合、空気より重いため頭部を高くし、風上へ避難するなどの対応が急がれる。独特の異臭があるが、高濃度では臭覚が利かなくなる恐れもあるため注意が必要だ。
自殺を図るほどの深刻な悩みを抱える人には、「群馬いのちの電話」(電027・221・0783)などの相談窓口があるほか、桐生・みどり両市の青少年センターも相談に応じる。「桐生市ヤングテレホン相談」(電44・1100)、「みどり市青少年センター」(電76・9910)へ。