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セーフティーネット、現場と行政のバランスは

 「暴力を振るう加害者の受け皿がなければ、被害者は追われ続ける」「自殺しようとしている人に『生きろ』と言うのは、海でおぼれてもがいている人に言っているようなもの。生きたいと思っていても、そのすべが分からないだけ」―。非営利の政策シンクタンク「構想日本」がこのほど開いたフォーラム「私たちは何を『セーフティーネット』にすればいいのか」で、多重債務やDV被害など、さまざまな生活上の問題を抱えている人の悩みを聞く、通称「新宿駆け込み寺」所長の玄秀盛さんや、NHKのディレクターとして自殺者の遺児にかかわった経験から、自殺対策のNPO法人(特定非営利活動法人)を立ち上げ、「自殺対策基本法」の制定などにも関与した清水康之さんらが、支援者としての姿勢や、今後の行政施策が目指すべき方向を語った。

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NPO法人日本ソーシャル・マイノリティ協会・玄秀盛新宿救護センター所長
■加害者と被害者に境目はない

 
玄さんは東京都新宿区歌舞伎町で約6年間、通称「新宿駆け込み寺」の新宿救護センターを運営し、DV被害や多重債務、家庭内暴力、うつなど、生活上のさまざまな問題を抱える人たちの相談に乗り、1万人以上を支援してきた。

 例えばDV被害者を受け入れる際、駆け込み寺のチラシを被害者が自宅に置いてから来るようにするなどして、加害者に行き先が分かるようにすると説明した。「うちには被害者も来れば加害者も来る。加害者の受け皿がなければ、加害者は必ず被害者の実家や親類、友人、知人などに行ってしまう。世の中の相談センターや支援者は、被害者は受け入れるけど加害者はお断りということが多い。加害者を受け入れる場所がなければ、被害者はいつまでたっても逃げるしかない」と述べ、加害者にも自分の思いを話したりできるような受け入れ先をつくらなければ、問題は解決しないと指摘した。その上で、「加害者と被害者の境目は、本来はない」と強調した。

■問題には「即断即決」

 
多くの問題を抱える人に対する日本の支援策について、どこに相談すべきか分からない状況があると問題提起した。「事(問題)の起こりは複合的だが、問題が複数あれば組織で縦割りの対応になってしまう。DVがあれば女性センターに、金銭問題があれば民事不介入だから弁護士に、となってしまい、組織で対応するには限界がある。一人の問題を組織でぐるぐるとたらい回しされて、答えは出ず、時間だけが過ぎていく。本人は救急患者と同じぐらいの問題を抱えているのに」と述べた。玄さんは相談を受けた際、「即断即決。どんな問題でも10分か15分聞けば分かる。答えるのは2,3分あればいい。相手が(多くの問題を抱えて)冷静さを欠いている状態だからこそ、あらゆる問題を『今やる』、という熱さが必要」と語った。

 また、亡くなった夫がつくった300万円の借金を抱えた福島県の86歳の女性が、玄さんのうわさを聞き付けて歌舞伎町までやって来た事例について話した。
 「毎月15万円ずつ返済していて、死んだ主人の墓も建てられない、孫にランドセルも買えないという。サラ金会社が8社ほどあり、まだ以前の29%ぐらいの金利で払っていて、身内にも借金をつくっていた。行政に知れたら村八分にされるから相談できないという。でもおれのところに来たらたった10秒で解決した。『払わんでええ』と言った。この安心感で号泣する。300万円が(還付金で)還ってくると言うとまた号泣する。悔しいのは、何で福島でもどこでも耳を傾ける場所がないのかということ。弁護士のところに行ったら、『事務所で話を聞きましょう』と言ったら30分で1万円や5000円掛かり、またお金をつくらなければいけないと思う。最終的に還付金で385万円取った。(亡くなった夫の)お墓を建てて、孫にランドセルを買って、80万円残った。そしたらおれのところに寄付として持って来る。『おばあちゃんあほか、あんたの葬式代にしとき』と、うちは無料相談だからもちろん受け取らなかった。こうした人も助けられない世の中。それが毎日起こっている。こういう環境に置かれた時、どう光を当てるかだ」

■映し鏡になるだけ

 
さらに、相談に乗る際の姿勢を以下のように語った。
 「解決はしていない。たった一つ、その人が『気付く』こと。気付けば本人が自ら問題解決に導くから、勇気と安心を与えること。その人の人生をいじくらないことが基本。暴力や多重債務などの束縛で、その人の羽がもげているのなら、その縁を切ってあげる。そしたら本人はゴムが跳ねるようにびゅんとどこへでも行く。その結果がどうなったかはおれには必要ない。魂が再生すれば、おのずと行くべき所は決まっている。問題を解決してあげるなんてことはできない。自分はその人の映し鏡になるだけの容量も度胸も器量もあるから、すべて兼ね備えてそのままのみ込むから、本人が自力で歩いて行くことができる。自分はそういうマンツーマン勝負しかできない」


NPO法人自殺対策支援センターライフリンク・清水康之代表

■弱者ほど支援から遠く離れる

 
「日本はセーフティー『ネット』がない。支援策はいろんな分野にあり、窓口はあるが、格子状でネットになっておらず、当事者にとって必要で、使い勝手がいい仕組みになっていない」。清水さんはNHKのディレクターだった4年前、自殺者の遺児や自殺対策などの取材を通して自殺を社会的問題としてとらえるようになり、会社を辞めて自殺対策の支援をするNPO法人を立ち上げた。その後、自殺を考える人からの電話相談などを行い、超党派の国会議員により立法した「自殺対策基本法」の立案に貢献し、自治体の自殺対策などにもかかわっている。

 清水さんは、自殺を考える人への支援にかかわる際の姿勢を、以下のように話した。
 「まずはじっくり話を聞く。問題を複数抱え過ぎていると、自分がどんな問題を抱えているかということが分からなくなっている。社会的に弱い立場にあり、重大な問題を抱えている人ほど、新たに問題を抱えやすく、支援から遠くなり、支援を受けるコストが掛かりやすい実情がある。社会的に弱い立場にある人を見ると、それがよく分かる。自殺者の遺族の支援をしているが、一家のあるじが亡くなった場合、遺族は借金を抱えて心理的にも追い詰められる。子どもの学費をどうするか。労働の問題なら、労災申請をどうするかなど、問題が多岐にわたる。しっかり話を聞いて、問題の因果関係を提示しながら解きほぐしをする。その上で、『弁護士を、精神科医を』とか抽象的な言い方ではなくて、『○○弁護士、○○病院の○○先生』とか、具体的な個人名で相談に乗ってくれる人を紹介する。問題をいっぱい抱えて『これ以上生きられない』という精神状態にある人でも、問題を解決し、通常の暮らしに戻るまでのプロセスを具体的に見せてあげることで、生きていく意志を取り戻すことができるようになる」

■「命大事に」は通用しない

 
自殺を考えている人について、「『命を大事にしなさい』とか『地獄に落ちるよ』と言うのは、ほとんどの場合において無意味。死にたくて死んでるわけではない。自殺する人は海でおぼれていて、今にも死にそうになっている感じ。その人に『死ぬな。命を大事にしなさい』と言っても意味がない。本人は生きたいと思っているけど、そのすべが分からない状態」と説明した。その上で、自殺対策は専門家などが特別に行うものではなく、地域づくりや社会づくりにつながる、総合的な「生きる」ことへの支援であると述べた。

■現場と行政、「循環」の仕組みを

 
また、「社会で起きている問題は、現場の実態とシステムの構築についての視点が乖離(かいり)している」と指摘。現場で何が起きているか分からない状態のまま、調査データなどを基に制度を設計しているため、市町村レベルなど、実際に制度を利用する段階まで施策が下りてきた時に機能しないものになっているとした。清水さんは、「現場に近いところにどういう問題が起こっていて、どういう対策が必要かを把握する人が必要。それを政策に生かす『循環』の仕組みをつくらねばならない。社会や時代が動くにつれ、現場では想定できないことが次々と起こる。仕組みに限界があるというのは簡単だが、仕組みでできることを極限までやる努力が必要」と指摘した。

 また、7月6日に、自殺が実際にどういう状況で起こっているかなどをまとめた「自殺実態白書」を、超党派の議員と共に舛添要一厚生労働相に提出する予定だと述べた。その際にマスメディアに公開するとも述べたが、「マスコミもいいことをやっていれば報道してくれるわけではないので、ちゃんと投げる球を精査してやっていくということ」と語った。

■「実務の現場」で出会いたい

 
清水さんは最後を、「政治、行政、マスコミなど、どの世界にも志を持っている人がいるので、お互いの得意分野を補完し合いたい。民間活動だけで閉じこもるのではなく、分野や業界を超えて実態を把握したものをしっかりと対策につなげるため、そういう人と行動していきたい。皆さんと実務の現場で出会える日が来ればいい」と締めくくった。


更新:2008/06/30 20:45   キャリアブレイン


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