taspoの“成人”識別の違和感2008年7月1日から全国で,お金だけではタバコが買えなくなってしまった。必要となるのが成人識別ICカード「taspo」。自販機に代金を入れて目的のタバコを選んでから,非接触ICカードであるtaspoを読み取り部にかざすことで商品が出てくる。タバコを吸わない人には関係がないだろうし,嫌煙家にとってはむしろ喜ばしいことなのだろう。だが,愛煙家にとっては煩わしいだけのtaspo。それだけでなく,違和感を覚える。 taspoは未成年者の喫煙防止を目的に導入された。2002年から一部地域で実験を始め,2004年から種子島で本格的に実験導入をしてきた。今年に入って,地域ごとに段階的に本導入が始まり,7月1日から日本全国の自販機にtaspoリーダーが装備された。 taspo導入によって,タバコ自販機の売り上げは激減した。様々なニュースを見る限り,軒並み半分以下に落ち込んだらしい。理由はtaspoがなかなか普及しないからで,全喫煙人口に対する普及率は6月下旬の段階で20%に満たないという。taspoを持つことはタバコを“吸います” という意思表明,あるいは“吸っています”という証拠になる。禁煙したいと考えている人,あるいは家族などに喫煙を内緒にしている人にとってtaspo取得には精神的なハードルがある。そのことが,taspoが普及しない理由の一つになっているようだ。 taspoの普及を妨げるさらに大きなハードルは,手続きの煩わしさである。taspoを入手するには,申込書に記入し,本人確認書類(運転免許証や健康保険証などのコピー)と顔写真を添えて郵送しなければならない。 顔写真は意味がない
違和感の一つがここにある。なぜ顔写真まで必要なのか,意味があるのか。つまり,送付した顔写真はいらないのである。taspo申し込みで顔写真が必要と知ったとき,「もしかすると,自販機にカメラをつけてタバコ購入者の顔と,taspo上の顔写真を比較して本人確認をするのか」と思ったが,やはりそれはなかった。 だいたい,送付する本人確認書類は顔写真がない保険証でもいいわけだから,顔写真が本人のものかどうかを確認しようがない。ちょっと見た感じでは成人かどうか区別がつきにくい未成年が,成人である他人の保険証のコピーと自分の顔写真を送っても,成りすましかどうかわからない。 taspoを持ってさえいれば,未成年者でも自販機でタバコを買える。taspoの運営サイドは,顔写真はtaspoの本人への帰属性を高め,貸与・譲渡を抑止するためとしている。しかし,顔写真が印刷されていようがいまいが,未成年者に貸す人は貸す。現に,タバコを吸わない母親が高校生の息子のためにtaspoを入手して貸与したという例がある。 taspoに対する違和感はほかにもある。本人であることでなく,成人であることを証明するだけなのにという点である。特に30代以上なら「成人ですか?」と確認されること自体,妙に感じる。とはいえ,成人であることだけを簡単に証明する方法はない。 手続きが面倒なのに,タバコを買うときの成人証明書にしかならないのでは申し訳ないと思ったのか,taspoには結構付加機能がある。しかし,これがまた中途半端である。 電子マネー機能「ビデル」を備え,自販機でタバコを買うのに使える。自販機はチャージ,残高照会機能も持つ。そのため,自販機はFOMAを使った無線ネットワークで結んでいる。しかし,taspoが採用するICカードの規格はタイプAであるため,タイプCであるEdyやおサイフケータイのようには使えない。タバコ自販機専用の電子マネーなのである。 免許証を使う方法があるにもかかわらず本人確認というならば,免許証が定番であろう。実際,免許証をtaspoのように使える自販機がある。松村エンジニアリングが開発した「運転免許証年齢識別装置」である。既存の自販機に取り付けられる。財務省は,この装置を「成人識別装置を装備した自動販売機」として認定している。免許証ならば,気軽に貸与したりしないだろう。免許証などを持たない人に対してのみ,taspoのようなものを発行すればよい。 しかし,免許証方式の年齢識別機能を備える自動販売機の普及率は低い。日本たばこ協会,全国たばこ販売協同組合連合会,日本自動販売機工業会の3団体が主体となって時間と金をかけて進めてきたtaspoと比べるまでもない。 taspoの違和感はここにもある。免許証利用という方法もあるのに,タバコを売る側が愛煙家に過剰ともいえる面倒を強いて何をしたいのかがわからない。未成年者の喫煙がこれで減ると思っているのか,それとも建前だけなのか。 そんなに面倒ならば「タバコをやめたら」と言われるだろう。しかし,タバコをやめることのほうがもっと面倒である。 キーワード
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